出口が見えた設備・雇用のストック調整

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2010年05月17日

  • 渡辺 浩志
リーマン・ショック後の需要の急落は、大幅な需給ギャップを生んだ。企業の収益性は大きく低下し、その下で生じた生産設備や雇用のストック調整は、内需の低迷をもたらすと共にデフレを長引かせる原因となってきた。しかし、ストック調整は需給ギャップが完全に埋まるまで続くわけではない。内閣府の試算によれば09年10-12月期時点で需給ギャップは30兆円あまり(潜在GDPの6.1%)ある。裏返せば強烈な供給過剰状態が続いている。それにも関わらず、すでに設備投資は底入れを迎え、労働需給にも改善が見られ始めている。

この背景として企業の収益性が改善していることが挙げられる。日本企業全体の損益分岐点売上高比率は、09年1-3月期には93%、すなわちあと7%売上が減少すれば、マクロで赤字というところまで悪化した。これが10-12月期には82%と、前回の景気回復局面の平均レベルにまで一気に改善したのである。損益分岐点売上高比率がどうしてここまで改善したか。一言で言えばコスト削減である。デフレもあり売上の回復が鈍い中、企業は生産設備や雇用の削減を通じた固定費の削減だけでなく、変動費も大幅に削り、収益性を改善させてきた。

ではどこまで収益性が改善すればストック調整は終わるのか。設備投資や雇用の先行きを的確に表しストック調整の進捗度合がわかる、日銀短観の設備判断DI・雇用人員判断DIを基準にするのがいいだろう。設備や雇用のストック調整が終わるのはこのDIがゼロ(すなわち過不足なし)となるときだ。しかし、DIはマインド調査であるから、経営者が何を判断の拠り所としているかを知る必要がある。ここでこれらのDIと極めて密接に連動する収益性指標がある。設備判断DIであれば総資産利益率(ROA)、雇用判断DIであれば労働分配率である。また、過去20年を振り返るとそれぞれのDIがゼロになるストック調整の出口は、ROA=4%、労働分配率=65%となっている。

雇用のストック調整は09年10-12月期に労働分配率が64.7%となったことで目処がついた。今後の雇用の回復速度に大きな期待は出来ないが、収益の回復が続く限り雇用危機の再燃の可能性は低い。生産設備のストック調整については、10-12月期にROAが3.1%まで改善し、終盤を迎えつつある。ただし、企業のコスト削減の余地が縮小しきていることで、この先、収益性の改善は進みづらくなる。90年代、企業は債務や生産設備の削減を進め、膨張したバランスシートの調整を図ったものの、ROAは3%前後に留まり慢性的な設備過剰感とキャッシュフローを下回る控え目な設備投資に終始した。足下、企業のフリーキャッシュフローの使途は依然不明確で、設備投資は当面更新投資を中心とするものとなる見込みだ。

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