第2のギリシャは英国?

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2010年03月15日

  • 山崎 加津子
ここ3ヶ月、欧州の金利、株式、そして為替市場は「ギリシャ」一色に染まっていたと言っても過言ではない。12月半ばに米英の3大格付け機関が相次いでギリシャ国債の格付けを引き下げて以来、同国債が投資不適格になるのではないか、デフォルトするのではないかとの懸念が市場を揺さぶった。その後、ギリシャ政府が大規模な財政赤字削減計画を提出し、EU(欧州連合)やECB(欧州中央銀行)がこれを承認したことを受けて、「ギリシャ懸念」はいったん落ち着きつつある。しかし、過大な財政赤字を抱えた国々への懸念が消えたわけではない。ギリシャに関しては赤字削減計画を確実に実施できるか、4月、5月に控える大型の国債償還を乗り切ることができるか、まだハードルは多い。また、より大物が注目を集める可能性がある。

ギリシャ懸念のさなか、欧州で「第2のギリシャか?」と名指しされたのが英国であった。英国はユーロ圏には加わっておらず、ギリシャや他のユーロ圏諸国のような、金融政策と為替政策の自由度がないという問題を抱えているわけではない。また、厳密に言えば財政規律(財政赤字をGDP比3%以内に維持する)に縛られているわけでもない。ただ、2008年秋以降の金融・経済危機の中で、銀行支援と景気対策で財政赤字が急拡大しており、2009年の財政赤字はGDP比10%を超過した。このため格付け機関からは、赤字削減策を講じなければ、最高位のトリプルAを付与している国債格付けの引き下げを検討せざるを得ないとの警告が発せられている。

英国の最大野党の保守党は、この巨額の財政赤字を政府の失政として批判し、政権交代の暁には財政赤字削減を最優先課題とすることを表明している。世論調査で保守党に大きくリードされていた与党の労働党も、これに対抗するべく、やはり財政赤字削減を重要課題として掲げてきた。両党とも公務員の給与凍結や政府による投資プロジェクトの先送りに言及している点は共通している。一方、税政策では相違点が見られる。労働党は既に4月に始まる新財政年度から年収15万ポンド以上の高額所得者の所得税率を40%から50%へ引き上げる方針を表明しているように、高額所得者に負担増を求め、歳入増をねらっている。これに対して、保守党は企業支援を目的に法人税負担引き下げを掲げている。一方で、具体的な増税策はまだ出ていないが、VAT(付加価値税)引き上げの可能性が高いのではないかと見られている。

保守党であれ、労働党であれ、新政権が財政赤字削減を実現させるのであれば、英国が第2のギリシャとなって国債格下げとなる懸念は高くないはずであった。ところが、今年2月になって保守党と労働党の支持率が拮抗してきており、第3の党である自由党も含めて、総選挙で過半数を取れる政党がいない可能性が高まっている。英国の総選挙は今年6月までに実施される必要があり、5月実施の可能性が高いと予想されるが、その最大の注目点は13年ぶりの政権交代が実現するかどうかではなく、少数与党となるか安定政権となるかになってきた。少数与党の場合、財政赤字削減を進めようとしても、削減方法の違いから野党の反対にあって、思うような削減を進められない懸念が高まるであろう。

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