オープンガバメントで改めて問われる三つの課題

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2010年02月24日

  • 小川 創生
昨日(2月23日)から、「経済産業省アイディアボックス」という新しい試みがWebサイト上で実施されている。政策に関する意見の公募自体はこれまでにもインターネットを通じて実施されてきたが、この「経済産業省アイディアボックス」ではさらに、意見やアイデアに対するコメントや賛否投票といった、政策議論を促進するための機能を持っている。経済産業省はブログやツイッター(Twitter)も活用して事前のアナウンスや質疑応答を先行実施しており、注目を高めている。

このような試みは、オープンガバメントと呼ばれる概念の具体化として位置づけられる。米国のオバマ大統領が就任直後の2009年1月に署名した覚書「透明性とオープンガバメント(Transparency and Open Government)」では、民主主義の強化および行政の効率性・効果性の促進のために、政府は透明で、参加型で、協業的でなければならないという三つの原則を示している。これらの原則は昨今の日本の政治でも同様に求められている事柄であり、今回の「経済産業省アイディアボックス」は、このうちの参加型、特に一般の国民の意見をより広く深く把握するための手段ということになる。

ここで、今回のオープンガバメントの試みについて、改めて問われることになるだろう課題を三点指摘しておきたい。「意見集約のプロセスの明確化」「実名・仮名・匿名に関するポリシーの検討」「縦割り行政の打破」である。

まず、たくさんの意見が集まり、活発な議論が交わされたとして、それらを集約するプロセスが明確である必要がある。これは従来の政府の審議会等における意見公募(パブリックコメント)でも求められてきた事柄である。一時的な物珍しさから議論が盛り上がったとしても、意見集約のプロセスが不透明あるいは恣意的であれば、参加者の参加意欲はやがて萎え、その後の政策議論は促進されないだろう。今回の試みはまだ「試み」であろうし、そうしたプロセスはこれから煮詰めていく段階であろうが、一定の注目を集めているうちに何らかの手法を見出していく必要がある。

次に、議論の参加者にも発言にそれなりの責任が当然求められるし、その一環として、実名・仮名・匿名に関するポリシーの検討も必要となる。これは長年ネット上で論じられてきた争点でもある。実名の提示を強く求める立場もある一方で、仮名での長期間の同一性が確保されれば良いとする立場や、サイト管理側が連絡先を把握していれば実名を公表しないでも良いとする立場もある。匿名でないと躊躇する意見表明や情報提供も時にはあるだろう。ただし、政策決定への市民参加が進めば進むほど、その責任は重くなっていく。そして、実名は示さずとも、議題やプロセスによっては居住地や国籍の確認が選挙と同様に求められるかもしれない。そうした検討をゆくゆくは進めていく必要がある。

そして、「経済産業省アイディアボックス」は今のところ経済産業省が単独で実施しているのだが、縦割り行政とならないよう、省庁間で今後は協業していく必要がある。これも今までの行政に度々見られた問題である。総務省のスマート・クラウド研究会も、ツイッターを用いた意見収集を今月の10日に開始しており、総務省側で意見を整理、集約した上でツイッター経由の意見として提出する予定である。文部科学省も、インターネット上の議論の場を使って国民の意見を政策につなげるシステム(「熟議」)を今後開設予定としている。経済産業省のオープンガバメント推進サイトでは「アイディアボックスの利用をご希望の府省・自治体の方はご連絡ください!」と呼びかけているものの、状況はあまり芳しくない。こうしたことは、やはり政治主導で行政の効率性・効果性を高めていく必要があるのではないか。

かくいう筆者も、「経済産業省アイディアボックス」への参加登録をすでに済ませている。国民の一人、参加者の一人として、こうした課題の解決、そして、日本におけるオープンガバメントの大いなる発展を切に望むところである。

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