2010年01月12日
来年度の税収見込みが37兆円あまりへと大きく落ち込む中で、来年度予算で国債発行額をどのように設定するかが大きな政治問題となった。このところの財政赤字の増大のもっとも大きな要因は税収の落ち込みであるが、支出サイドも増大している。税収や短期的な経済対策による支出増から生じる赤字は循環的なものであり容認しうるのだが、その裏側にある構造的な赤字をどのように把握するかが問題であろう。
日本経済の潜在成長力が大きく、経済がフル稼働状態になれば財政部門が黒字になると見込めるのであれば、財政にはバランス上の大きな問題はないといいうる。しかし、潜在力そのものをどの程度にみるかについては幅をもってみる必要がある。2006年は日本経済がほぼフル稼働状態にあったと考えられるが、税収は当年度が49兆円、翌年度の税収は51兆円であった。2006年度の国債および借入金は7兆円であったので、この水準を一般的にいう国の財政赤字の構造的な部分と看做しうるかもしれない。
次に検討しなければいけないのが、財政赤字の定義あるいは認識の問題である。通常、財政赤字としてよく使われているのは、国の場合、国の国債・借入金の増加額である。政府セクターとして、地方財政も一体との立場から中央政府・地方政府の金融的な収支が使われることも多い。企業会計でいえば、どちらもキャッシュフローの考え方に近いということになるだろう。
一方、投資的な経費が「有効な」公的ストック形成であると考えるのであれば、ネットのストック形成は費用認識せずにキャシュフローに足して収支認識するという考え方もあるだろう。このように考えると、企業会計的な利益の概念に近くなる。しかし、実際には公共投資は直接的な収益を生まないストックの形成がほとんどであるから、営利を目的にした企業の投資によるストック形成とは本質的に異なる。それでも社会資本が国民生活の向上に役立つように形成されるのであれば、それをバランスシート上の資産として考えて、負債との関係を健全に保とうというのは適切であろう。
国民経済計算では、中央・地方政府に加えて公的年金などの社会保障基金と呼ばれる分野も加えた一般政府について、その正味資産が推計されている。これによると、2007年末の日本の一般政府の正味資産は約64兆円で、前年より15兆円増加した。このような実質的な増加はバブル崩壊以来であり、一般政府のバランスシートという観点でみれば、財政は回復しそうな方向性もみられた。しかし、まだ統計が発表されていないが、続く2008年度、2009年度は相当正味資産が減少していることは疑いがない。バブル前でも凡そ140兆円、バブルのピークでは350兆円に達した一般政府の正味資産はマイナスに陥りそうであり、正真正銘の負債超過になる可能性がある。
さらに、負債の考え方にも問題はある。仮に公的年金について、年金保険料を支払った加入者に対する将来給付を現在価値に織り込んだ給付債務を負債として計上する考え方をとれば、社会保障基金も巨額の債務超過であることになるだろう。
財政健全化に向けた解決法は一筋縄ではいかない。歳出を緊縮型にしたり増税を行えば財政赤字が減るというものではなく、歳出削減や増税の悪影響が税収減となって跳ね返ってくる可能性も大きい。対策の中身と制度改革が問題になる。まずは一般的で経常的な政府の運営にかかる部分、社会資本部分と所得の再分配に関わる部分を大きく分け、その長期的な財政健全性を担保させる制度を作り上げ、そのうえで増税や無駄な歳出のカットの国民合意を形成することが大切だろう。
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