二兎を追う2010年の欧州
2009年12月29日
1年を締めくくるこの時期に2009年の欧州を振り返り、2010年を展望したい。
欧州にとって2009年は、リーマンショック後の金融と経済の大混乱からの脱出に成功した年として記憶されることになるだろう。汎欧州株価指数Dow Jones STOXXは年初から3月9日までで20%下落したが、その後はほぼ一本調子で上昇し、年初来安値から60%上昇で1年を終えようとしている。株価反転のきっかけは金融機関の収益改善期待であり、その後は景気回復期待が株価上昇を支えた。
「最悪期脱出」に貢献したのは金融政策と財政政策による一体的な危機対策であった。2008年9月のリーマンショック後、中央銀行は流動性供給策を拡充するとともに、10月には大幅利下げの口火を切る欧米協調利下げを実施した。11月にはEU(欧州連合)が加盟各国に大型景気刺激策の実行を呼びかけた。このような取り組みが功を奏してインターバンク金利は顕著に低下、株価反発に代表されるように金融市場に資金が戻り始めた。欧州のGDP成長率は独仏では2009年4-6月期に、ユーロ圏、イタリアでは7-9月期に前期比プラス成長に転じた。出遅れた英国も10-12月期はプラス成長を回復する見込みである。
では、続く2010年はどのような年になるだろうか。金融・経済危機に総力をあげて取り組むことが必要であり、また、それが可能だった期間は終わり、徐々に「平常時」へ戻ることを念頭に置かねばならない期間に入ることになろう。既に12月3日のECB(欧州中央銀行)の金融政策委員会では、流動性供給策を徐々に縮小させていくことが宣言され、12ヶ月オペはこの12月で、6ヶ月オペは2010年3月で終了するとのスケジュールが発表された。もっとも、ECBの潤沢な流動性供給を象徴してきた「固定金利で上限なしの資金供給」は、より短期のオペでは少なくとも2010年4月半ばまで継続される。すなわち、危機対応モードが一気に後退したわけではない。しかし、民間銀行に対していつまでも中央銀行から低利で資金調達ができるわけではないとの警告が発せられたのである。
一方、財政政策では2008年11月以降に策定された景気刺激策は2010年末までの2年間が想定されている。ただし、即効性を発揮したドイツの新車買い替え奨励策が2009年9月で終了したのに続き、一部は終了期限を迎えていくことになる。さらに、財政政策にとってこれまでの「景気対策」だけでなく、「財政赤字削減」の優先順位が高くなるだろう。12月に国債の格付け引き下げを受けたギリシャは極端なケースではあるが、欧州各国の財政赤字が拡大したことは事実であり、赤字拡大を放置することに対して金融市場の目が厳しくなっている。もともとEU諸国は遅くとも2011年には財政赤字削減に向けた取り組みを開始することで合意していたが、そのインセンティブがさらに高まったと考えられる。
金融政策、財政政策とも景気対策を忘れたわけではない。しかし、景気対策と平時モードへの切り替えという二つの課題をどう両立させるかという難しい舵取りを迫られると見込まれる。欧州経済はプラス成長への転換は果たしたものの、加速力には乏しく、2010年は低空飛行となることが予想される。この期間は個別企業がリストラを一巡させ、次の成長戦略を競う、いわば雌伏の時期と見ているが、欧州株が全体として買い上げられる材料に乏しく、上値の重い展開が続こう。
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