中国の"グリーン経済化"成功の鍵を握るCSR

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2009年11月26日

  • 横塚 仁士
地球温暖化問題への関心が世界的に高まる中、その動向が注目を集めている中国政府は省エネや再生可能エネルギーをはじめ数々の政策を積極的に展開しており、海外からも一定の評価を受けるようになった。しかし、中国国内では環境問題と言えば水・大気汚染の問題が最重要であり、汚染が深刻なこれらの問題をどのように解決するかが今や中国政府の重要な政治課題の一つとなっている。そのため、中国政府は環境関連法や政策の整備を進めて企業への規制や支援を強化しており、一部の環境政策の実施に関しては国際機関や海外の有力NGOに助言を仰ぐなど、環境保護を重視する姿勢が目立つようになった。

このような路線は2011年からの「第十二次五ヵ年計画」においても継続される可能性が高く、環境保護のための規制強化だけでなく、温暖化や水質汚染などの環境対策と経済発展の両立を図る「グリーン経済化」が進められる見通しである。中国の胡錦濤国家主席は、中国版“持続可能な社会”の構築を目指す「科学的発展観」を提唱しており、これが中国の目指すグリーン経済化の理論的裏付けとなっている。

一連の政府による取組みだけでなく、民間においても環境問題に対する意識が都市部を中心に浸透を始めている。例えば、環境NGOによる住民への啓発活動の影響を受けて一部の大都市圏では空調の温度を適切に保つという市民運動が開始された事例もある。また、山東省と福建省では、化学プラントや産業廃棄物処理場の建設に対し、環境面への懸念から現地住民とNGOによる受け入れ反対運動が起き、建設が中止になった事例も報告されるなど、意識の変化が見られ始めた。

このような状況の中で注目されるのが企業の動向である。中国政府は2006年に会社法を改正して企業の社会的責任(CSR)に関する条項を追加するなど、CSRの普及を進めている。そのため、ここ2-3年でCSR報告書を開示する中国企業が増えており、中には非常に多岐にわたる情報を開示した企業も見受けられるようになった。

しかし、実情は多くの企業がCSRを上からの“押し付け”という感じで捉えており、環境・社会面ともに積極的に対応する企業は現時点では少ない。とくにエネルギーやインフラ、重化学関連産業では中央政府が直轄する有力国有企業が中心的な担い手となっているが、これらの企業では長期にわたり経済成長が最優先されてきたため、環境保護を重視する姿勢に短期間で意識を転換することは難しい。中国の現地NGOからは「政府や民間の意識は変わってきているが、有力国有企業の中には現時点でも(環境への取組みが)問題がある企業も多い」という指摘も聞かれる。

中国がグリーン経済化を進め“持続可能な社会”を構築するには、中国の地場企業がCSRを政府からの指示として受身に対応するのではなく、自主的に環境保護などのCSR活動に取り組むことが重要な鍵となる。これと同時に、日系をはじめ外資系企業が果たす役割も大きい。政府当局やNGOの告発を受けて外資系企業が槍玉に挙げられ、大々的にマスメディアで報道される事例が依然として存在する一方で、外資系企業のCSR活動が好意的に中国内で伝えられるケースも増えており、このことは中国内でもCSR活動への注目や期待が高まっている現れでもある。中国に進出する各企業は、CSR活動の実践が中国の政権が目指す新しい経済のあり方(グリーン経済化)に対応できる重要な手段であると同時に、長期的にはビジネスチャンスにもつながると考えて行動することが期待される。


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