M&Aスキームの変遷

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2009年10月22日

  • 間所 健司
わが国においては、1999年の商法改正で株式交換制度が創設されたことで、株式交換によるM&Aが一気に増加した。会社分割制度はそれに遅れること2年、2001年の改正から可能となった。1999年の商法改正前は、M&Aの手段としては、株式の譲受か、合併くらいしかなかった(営業譲渡という手段もあった)ものが様変わりした。

合併の利点としては、
  1. 株式譲渡の場合は現金を対価とすることが一般的であるが、合併の場合は自社の株式を対価とすることが多い(現在は現金対価の合併も可能)。
  2. 被合併会社(買収される会社)の資産負債は、合併会社(買収する会社)にそのまま引き継がれ、複雑な手続きが必要でない。
  3. 合併には株主総会の決議が必要であるが、株主総会で決議されると少数株主にも強制力を持つことができる。
などがある。その一方で、

  1. 不要な資産負債も引き継がなければならないし、開示されなかった負債までも引き継ぐことになってしまうことがある(資産負債の包括承継)。
  2. 元々いる自社の従業員の労働条件と引き継いだ従業員の労働条件を調整しなければならない(従業員のモチベーションの維持向上)。

など、合併による経営上の課題も多い。

これらの課題を解決したのが株式交換である。株式交換の場合は、非開示の負債が見つかった場合でも、自社に取り込んでしまう合併と異なり、子会社の範囲にとどまること。また、会社が別なので労働条件を無理に合わせる必要がない。など合併の経営上の課題を克服することができる。その一方で、統合によるコスト効率化が発揮されず、グループとして経営の統一性に腐心しなければならない。

これらの再編スキームに加え、最近目につくのは会社分割である。会社分割では次のような利点がある。
  1. 引き継ぐ資産負債をある程度選択できるため、不要な資産負債や非開示の負債を引き継ぐ可能性が低い。
  2. 資産負債だけでなく、事業そのものも選択できるため、必要な事業のみ選別できる。
  3. 分割の方法により労働条件を合わせる必要がない仕組みづくりも可能。

このほかにもM&Aのスキームは様々あり、また、複数のスキームを組み合わせることも可能である。M&Aを進めていく際には、会計、税務面を含め、自社が目指すビジョンに適合したスキームを検討していく必要がある。

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