対外不均衡イコール経済危機の芽ではない

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2009年10月20日

  • 尾野 功一
対外不均衡は古くて新しいテーマである。日米貿易摩擦が激化した1980年代は、日本の貿易黒字と米国の貿易赤字を解消するために、1985年のプラザ合意にてドル安誘導が取り決められ、日本の内需拡大への努力がこれを補完した。今日の主役は、米国の赤字と中国の黒字であり、さらに米国が世界経済の牽引役を降りるのではとの見通しに加えて、ドルの基軸通貨としての地位に対する不安も生まれつつある。

確かに、対外不均衡はときに経済状況の歪みが強く反映されことがある。だが、経済活動のグローバル化に不可避の現象でもある。貿易の優位条件が世界中で不変である場合、経済規模よりも速いペースで貿易が拡大すれば対外不均衡は必然的に拡大するからである。各国が優位性を持つ財に特化して世界全体の生産が増加し、貿易を通じて個々の財が世界中に提供されることの恩恵が、この過程で生じる対外不均衡拡大のデメリットよりも大きいのであれば、対外不均衡をことさら問題視するのは適切ではない。また、外貨獲得の手段が輸出に限定された時代は、慢性的な貿易赤字は輸入の決済に使用する外貨の枯渇を意味したが、今日では為替市場で自国通貨を外貨に交換すれば事足りる国も少なくなく、貿易赤字を回避する緊急性は低下している。

そもそも、あらゆるタイプの危機が対外不均衡と関係するわけではない。今回、米国や欧州で「金融」危機が発生したことには疑問の余地はないが、ユーロ圏は経常収支が均衡に近い状態にあり対外不均衡は金融危機の原因としての説明力を持たない。さらに、1990年代から2000年代初頭にかけて金融危機が深刻化した日本は、その時点では世界最大の経常黒字国であった。

一方、「通貨」危機は金融危機より国際収支との接点は多い。だが、1990年代後半のアジア通貨危機以降は、単なる経常赤字の規模ではなく逃げ足の速い不安定な海外資本への依存が危機の原因となる事例が目に付く。昨秋以降の米国は通貨危機には該当せず、一方で1998年のロシアは経常収支がほぼゼロのもとで危機に陥ったように、大幅な経常赤字でないことが通貨危機からの回避を約束するものではない。

今日、G20などで対外不均衡の解消に再度焦点があてられつつある。だが、当事者が限定されたプラザ合意時でも意図通りに対外不均衡が解消されたとはいえず、世界経済が複雑に連携する今日において、多国間の政策協調が不均衡を効果的に解消する保証はない。国際資本移動は多国間の貯蓄過不足を調整する役目を持つが、現在はこの役割に相当する分を大きく超過した資本移動が生じており、逃げ足の速い資本移動の比率は上昇している。「レバレッジ」は金融危機の一因となったが、資本移動の膨張も不安定な経済状況を誘発しうるものであり、このことへの対処は単なる対外不均衡の解消よりもはるかに重要であると思われる。

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