重視される中国でのブランディング活動

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2009年10月13日

  • 横山 幹郎
中国建国60周年を機に、建国当時からの中国経済発展に関する報告が各方面から発表されている。その中の中国商業連合会と中華全国商業情報センターによる報告書では“社会消費品小売額が建国以来668倍にまで発展した“という。60年間の社会消費の発展・構造変化の軌跡は興味深いが、現在の企業の期待は、中長期的な“市場としての中国”と、昨年来の内需拡大にむけた消費促進策の効果と景気刺激策の進捗にあるように思われる。

ここ数年の日系企業の進出は、これまでの製造業から非製造業へとシフトする傾向にある。ただ、実際に中国の消費者へ直接販売する小売分野においては、日本で成功している企業が日本の事業モデルを中国へ持ち込んで成功することは稀なケースで、中国国内企業・中国へ進出した欧米企業との厳しい市場競争に直面している。

進出前、進出後に企業が対応すべき課題は、地域ごとの消費特性、国内での認知度、類似製品と価格差、広告宣伝、流通・出店等の慣習など多面的である。特に急拡大する中国市場では、カタログ販売、TV販売、ECサイトやアウトレットといった新しい販売ルートの普及や、一部の商業区に出店が集中し店舗確保が困難化するといった事態など、めまぐるしく変わる事業環境への対応に加え、ターゲットとなる消費者の動向把握が、一層重要だ。一般に製造業の中国での成功要因の一つに「現地化」が挙げられるが、小売事業においても同様に、中国で生産した日本向け製品の一部を中国で販売するスタイルから、中国の消費者ニーズに沿った商品開発と販売体制の展開が成功の鍵となる。そこでは13億人の消費者といった曖昧な対象から、自社の技術・サービスの強み、企業ブランドを基にしたターゲットの絞りこみ、ターゲット層の嗜好性やライフ・スタイルなどの調査を踏まえた、積極的なブランディング活動が求められる。

足元では、国家による最終消費や家計動向など各種統計や、上述の中国商業連合会による報告・提言なども整備が進み、消費者像の概観を把握することはある程度可能となっている。但し、日系小売業がブランドをアピールしやすいと想定される中国に滞在する外国人、現地の富裕層や新しい製品やライフ・スタイルの取り込みに積極的なイノベーター・アーリーアダプターといった特定のターゲット層について、マーケティング分析の材料となるデータ整備は進んでいない。

“市場としての中国”での今後の事業展開を検討するにあたっては、事前に十分な検討を踏まえた長期的な事業戦略を構築しながら、実際にはインタビューや広告宣伝、DM、プロモーションなどの試行錯誤を繰り返すことが肝要だ。成果の検証と柔軟な戦略転換を重ねながら、中国における企業ブランド、製品・サービスのブランド浸透を展開していく姿勢が不可欠だろう。

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