ソルガム農園(バイオ燃料実験工場)取材後記
2009年09月24日
スイートソルガムとは、イネ科ソルガム属の一年生作物であるモロコシ(sorghum bicolor moench)の変種であり、エチオピアの内陸部を原産地とする熱帯作物である。我が国では、1877年(明治10年)に導入され製糖法等が検討されたが、台湾におけるサトウキビ事業の発展の影響を受け、食用としては僅かに自家用の甘味料として栽培されるに留まった(※1)。また、飼料用としては、昭和50年頃までモロコシ、タカキビ、コウリャン等が栽培されていた(※2)。ソルガムの中でも、茎が長くて太く且つ多汁高糖分の種類が「スイートソルガム」と呼ばれているらしい。
茨城大学では、県内の耕作放棄地(8,984ha。これは埼玉県の広さの相当。)を有効活用し、バイオエタノール生産事業を開発・拡大させて、その結果、地域の農業革新、地域経済活性化、産業構造の転換に資する地産地消事業を目指している。事業化の目標は、2011年という。
茨城大学がスイートソルガムに注目した理由はその特性にある。スイートソルガムは、第一に生育が早く(サトウキビは12カ月~14カ月。ソルガムは4か月弱)、第二に低温にも強く(日本のほぼ全域で育成可能)、第三に土壌を選ばない、という。取材時、同大学のスイートソルガムは、既に5メートル程度の高さ(さとうきびは通常3メートル程度)に成長していた。現在のところ、数種類のスイートソルガムが植えられており、同大学が所在する阿見町の気候風土に適した種および育成の最適化に係る実験が行われている。スイートソルガムを原料とする類似の事業としては、山形県新庄市および沖縄県でも実証実験が行われている。
原料 | 生産可能量(2030年度) エタノール換算 | 生産可能量(2030年度) 原油換算 |
---|---|---|
1 糖・でんぷん質 | 5 | 3 |
2 草木系 | 180~200 | 110~120 |
3 資源作物 | 200~220 | 120~130 |
4 木質系 | 200~220 | 120~130 |
5 バイオディ—ゼル燃料等 | 10~20 | 6~12 |
合計 | 600 | 360 |
この意味から、昨年、農林水産省が第8回ASEAN+3農林大臣会合において提案・承認された「東アジアにおけるバイオマスタウン(※5)構想普及支援事業」は注目に値する。今回取材したスイートソルガムあるいは日本各地で研究開発が進んでいるセルロース系原料からのバイオエタノール製造技術を途上国に移転し、途上国の生態系または食糧問題に悪影響を与えないという前提で、将来的に成果物を我が国が輸入する。このような試みが早急に具体化することが期待される。2008年末現在、バイオエタノール導入に熱心なアジア諸国は以下の通りである。
国名 | 混合率 | 原料 | 導入義務・目標 | 支援措置 |
---|---|---|---|---|
インド | 5% | サトウキビ | ○2012年までに全面5%混合。 ○2017年までに全面10%混合検討中。 | ○混合ガソリンに対する課税軽減 |
中国 | 10% | トウモロコシ 小麦 ソルガム キャッサバ | ○E10導入を9省まで拡大(2006年)。 | ○エタノール生産事業者に対する消費税免除 ○原料作物に対する補助 ○エタノールに対する間接税の還付措置 |
韓国 | 3% (5%) | 米 キャッサバ | ○2007年11月より南部でE3、北部でE5の試験販売開始。 | - |
タイ | 10% (20%) (85%) | キャッサバ サトウキビ | ○2008年1月よりE20供給開始。 ○2008年中にE85導入予定。 | ○エタノールへの物品税免除 ○新規参入者向け法人税免除 ○E20・E85車両に対する物品税軽減 |
フィリピン | 10% | サトウキビ | ○2006年バイオ燃料法成立し、二年以内にE5義務化。 ○4年以内にE10引き上げ予定。 | ○エタノールへの燃料税免除 ○原料作物への間接税免除 |
インドネシア | 10% | サトウキビ | ○2025年の一次エネルギー消費量の5%以上のバイオ燃料導入目標。 | - |
(※2)吉浦貴紀、「スイートソルガムを使ったバイオ燃料生産の可能性について」(2009.4.24)、6頁。
(※3)例えば、十勝(甜菜)、苫小牧(非食多収穫米)、新庄市(スイートソルガム)、 新潟市(北陸193号)、大坂府(廃材)、岡山県真庭市(廃材)、北九州市(食品残渣)、沖縄県伊江島(サトウキビ)、沖縄県宮古島(サトウキビ)。
(※4)2009年9月1日より、首都圏で初めてE3の販売供給実証事業が開始された。本事業では、日伯エタノールが製造するE3ガソリンが供給される(平成21年8月31日付環境省報道発表)。
(※5)2009年7月31日現在、バイオマスタウン構想を公表した市町村は合計217。
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