IT投資の効果発現条件

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2009年09月15日

  • 栗田 学
リーマンショックから1年、世界的な景気後退はIT市場にも引き続き影を落としている。目先のIT関連市場規模は一時的ながら伸びが鈍化、もしくは縮小するとの見通しが多い。一方で、IT投資こそ経済成長を押し上げる原動力であり、これを加速させることが重要との指摘がある。ITが生産性を高め、潜在成長率と期待成長率が高まり、その結果設備投資が増加、需要が回復して経済成長につながる、ということだろう。しかしながら企業の意思決定を目線とした場合、話はそう簡単ではない。

2008年度における日本企業のIT予算は平均で売上高の1.12%、そのうちの約6割が既存の情報システムの保守・運用に向けられたとみられる(※1)。保守・運用の重要性は疑うべくもないが、それはあくまでも既存の情報システムを仕様書どおりに稼動させることに主眼が置かれる。IT予算の一部が投資として経済成長に貢献するには、保守・運用への配分を減らす一方、新規事業の構築や既存事業の効率化への配分を増やすことが必要である。

昨今、特に大規模な情報システムの保守・運用コストを削減する手段として「仮想化」が注目されている。仮想化により、データやプログラム等の情報資産の格納場所は意識する必要がなくなり、よってこれまで散在していた情報資産の拠点を統合できる。その結果、設備を減らすことができ、保守・運用コストが削減されるというものである。

問題はその先である。浮いた予算を生産性向上につながるIT投資にまわすことが必要だ。留意すべきは、IT投資をすれば生産性が向上するわけではないということである。まず業務フローの改善や新規事業参入等のプロジェクトにITがどのように適用できるかを考えた後、実施すべきか否かの意思決定がなされなければならない。適切な意思決定には、ITの投資効果の把握はもちろん、これを「見える化」することが重要である。

しかし、これが難しい。ITの効果が多岐に渡る上、どう測定すべきなのかもわからず、手軽に使えるツールもほとんどない。研究や意見は散見されるものの、測定結果の信憑性も評価は困難である。かといって、コンサルティングファームのサービスも軽々には利用しづらいであろう。

必然的にこのプロセスは省略される。情報処理実態調査(経済産業省、平成19年版)によれば、IT投資の効果を評価している企業は調査対象の4割に満たない。同調査の対象は、実際より大企業に偏っているため、現実にはこの割合はさらに小さいと見られる。すなわち、IT投資の大半は効果を精査せずに行われている。

IT投資が経済成長に貢献する土壌として、ITの効果を簡便かつ的確に把握するためのガイドラインやツールの整備・普及が欠かせない。ただ、ITの効果の把握はコンサルティングファームのノウハウの一部でもあるため、民間主導の取り組みは期待しにくい面がある。産官学一体となって行動を起こすときではなかろうか。

(※1):社団法人情報システム・ユーザー協会「企業IT動向調査2009」を参考に記述。

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