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プルデンシャルな政策の重視

2009年09月07日

吉川 満

米国では財務省が6月17日に開始した、金融規制改革の発表(全部で9回に亘って分割して発表)も8月11日に終了し、年内立法を目標とした作業が急ピッチで続けられています。既に議会審議も進められており、6月17日に発表した白書「金融規制改革:新しい基礎」(※1)の中で発表された複数の作業が同時に進行しています。9月一杯は作業日程の関係で、どうしても証券取引委員会(SEC)と商品先物取引委員会(CFTC)の規制の調和化作業(期限は2009年9月30日)に、関心が集まりますが、2009年10月1日を期限とする銀行及び銀行持株会社の監督の基本的な見直し、2009年12月31日を期限とする銀行及び銀行持株会社を対象とした銀行持株会社の自己資本規制比率の基本的な再評価も同時に進められています。議会で金融制度改革法が審議中である事に加えて、金融制度の根幹に絡む、上述の三大プロジェクトが同時進行中なのですから、米国が如何に真剣に金融規制改革に取り組んでいるか自ずと知れるというものです。

これらの金融規制改革の動きを見ていて、特筆すべき事は次の二点であると私は考えています。第一に法律制定手続き、ないし規則制定手続きにおいて、透明性が非常に重視されているということです。米国財務省は6月17日に発表した白書「金融規制改革:新しい基礎」(※1)の中で、消費者保護の為の4つの重点ポイントを発表しました。すなわち、1.透明性、2.簡潔性、3.公正性、4.アクセスの4点です。これらはいずれ劣らぬ、万人が見て重要なポイントですが、その先頭には透明性が置かれているのです。オバマ大統領、ガイトナー財務長官は、現実の政治過程、あるいは国民に対する説明等の中でなおざりにされることが最も多いのが、透明性であると考えたのではないでしょうか。ガイトナー財務長官はその言葉通りに、透明性を非常に重視して、就任以来、予想される作業のタイムフレームを示した上で、それに即して立法作業を進めて来ました。法案内容、規則内容なども案が固まれば非常に早期に発表する事を貫いて来ました。この点でガイトナー財務長官は、自ら率先して透明性の重要性を示していると言ってよいのではないかと思います。「米国発の金融危機」で弱まってしまった米国金融市場に対する投資家・消費者の信頼を回復するには、透明性を徹底して印象付けることが最も効果的な措置かもしれません。

特筆すべき第二のポイントは、「プルデンシャルな規制」を非常に重視する態度が徹底している点ではないかと思います。プルーデンス政策とか、信用秩序維持政策とか呼ばれる事もあるこの政策は、「金融機関が不健全な貸出や投資を増やさないように監視し、仮にそのような金融機関が現れた場合には金融システム不安が広がらないように食い止める政策」を意味すると、ちくま新書の「金融危機にどう立ち向かうか-『失われた15年の教訓』」の著者の田中隆之専修大学教授は述べています。「米国発の金融危機」を経験してから日が浅い米国は、経験を踏まえてきっちりとプルデンシャルな規制を実施しているように思われます。

これに対して、日本で金融規制の問題を考える場合には、日本では1990年頃から「失われた10年」とも「15年」とも呼ばれる景気後退期が長く続いたため、「プルデンシャル政策」の必要性を、緩和型の「金融政策」や「財政政策」の必要性に置き換える発想が残っているといわれる事があるので(例えば上述の田中隆之教授は「財政金融政策によるプルーデンス政策の『肩代わり』」の表現を繰り返し用いています。)、注意する必要があると言えましょう。

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