中国の官僚たちに見せたいもの

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2009年09月03日

  • 肖 敏捷
城山三郎氏の同名小説からドラマ化された「官僚たちの夏」が話題を呼んでいる。日本の経済発展のために献身的に働く通産官僚たちの熱い戦いを描いた作品だ。しかし、ある私的会合で、知り合いの現役官僚が、このドラマは中国の官僚に見せたくないと神妙な表情で話した。理由を尋ねると、これから喧嘩を売りにくくなるからだという。確かに、もし中国の政策を批判して、風越(ドラマの主人公)のような格好の良い中国官僚から、君たちも昔こう抵抗してきたじゃないかと一喝されたら、返す言葉がないはずだ。

公害問題への対応を描いた8月9日の放送分をみると、今の中国はまるで60年代の日本にタイムスリップしたような状況であることが分かる。中国は、改革・開放政策を導入した1978年頃から、中国は関連法制度の整備など、環境行政に取り組み始めた。例えば、1979年に「環境保護法」を試験的に施行、1984年に国家環境保護局を設立し、高度成長の黎明期に早くも環境保護の重要性を認識し体制を整えてきた。中国がやはり日本の経験と教訓をよく研究してきた形跡が窺われる。しかし、経済成長や地域振興が優先された結果、中国は日本の教訓を活かすことができなかった。

今回の景気対策の過程において、環境行政の限界が改めて浮き彫りにされた。ここ数年、政府は省エネや環境保護の促進、及び投資ブームの抑制を目的に、エネルギー消費量や汚染物質排出量の多い業種を対象とした、電力価格の優遇政策の廃止、及び差別的電力料金制度の導入を命じたのである。しかし、景気対策の実施とともに鉄鋼や非鉄などの原材料の需要増を受け、一部の地方政府は昨年末に優遇措置を復活し、これまで淘汰の対象とされていた一部のメーカーは生産を再開した。グローバル金融危機の最中に、景気か空気かの議論をする余裕さえなかったのかもしれない。

期待通り、景気はV字型回復を遂げたが、公害に対する国民の怒りも頂点に達している。相次ぐ鉛中毒事件に周辺住民は大規模な抗議運動を引き起こし、政府は汚染工場の閉鎖を余儀なくされた。こうした中、一つの裁判が大きな話題を呼んでいる。09年8月7日、江蘇省塩城市塩都区裁判所は水源汚染事故を起こした企業の法人代表と生産現場の責任者に対し、有罪判決を言い渡した。汚染企業の責任者に対する実刑判決は、中国では初の事例である。1972年、四日市ぜんそく訴訟について、汚染企業に賠償命令が下された。日本初の本格的な大気汚染訴訟で住民側が全面勝訴となったこの判決は、その後の日本の公害問題への取り組みに大きな影響を与えたと指摘されている。塩城水源汚染訴訟が中国の公害問題の転換点となるよう期待したい。

現実の世界は必ずしもドラマほど格好良くないが、不退転の決意で努力してきた結果、日本はかつての「公害列島」から世界一流の環境大国に変貌した。中国も真剣に対応すれば、ハッピーエンドが必ず来る。このドラマはむしろ中国の官僚たち、とりわけ地方政府の幹部たちにもみせるべきではないか?

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