嵐山の風に想う

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2009年08月26日

  • 菅原 晴樹
京都の風を感じたくて、嵐山へ向かいました。

渡月橋に佇み、青々とした木々に包まれた嵐山を眺めていると川上から涼風が吹いてきます。まずは、天龍寺に参拝。開山夢窓疎石の作庭になる回遊式庭園である曹源池は、嵐山・亀山を借景として、白砂、木々の緑がまぶしく輝き、池を渡る風も真夏の京都としては湿気もなく爽やかに感じられます。次に、野宮神社を右に見ながら、竹林に囲まれたなだらかな坂道をゆっくりと登っていきます。ほの暗い中、足を進めていくと竹の葉がそよぐ音を感じるとともに冷ややかな風が身体をすり抜けていきます。坂道を上り詰めた突き当たりに、目指す大河内山荘があります。大河内山荘は、昭和中期に活躍した映画俳優大河内伝次郎の別荘で、小倉山に続く山腹を庭園に組み込んだ屋敷です。伝次郎が、30年の歳月と映画の出演料の大半を注ぎこんだと言われる庭は、まだ半世紀しか経っていないにもかかわらず、長い歴史の京都の景観の中に何の違和感なく溶け込んでいます。「大河内山荘」と刻印された最中とお抹茶をいただき、大乗閣の前庭に立つと、京都市内、遠くには比叡山が一望できます。桜の季節もまた紅葉の季節もすばらしい景観を楽しむことができますが、暑い季節に吹き上げてくる爽やかな風の中で過ごすひとときも代えがたいものです。この「風」を感じていて、ふと頭を過ぎったのが「医療保険・年金の赤字決算」のこと。

8月4日厚生労働省は、平成20年度の政府管掌健康保険・全国健康保険協会管掌健康保険通算の単年度収支決算(以下、医療保険決算)および厚生年金・国民年金等の収支決算(以下、年金決算)を公表しました。

医療保険決算では、医療分単年度収支差は2,290億円の赤字(前年度比900億円の悪化)、準備金残高は、1,539億円(前年度比2,151億円の減少)となりました。介護分を合わせると2,538億円の赤字となり、平成19年度に引続き、2年連続の赤字決算です。全国健康保険協会は、平成21年度予算で医療分の単年度収支差を▲1,500億円と見込んでおり、準備金が枯渇するため、平成21年度と同水準の赤字を前提としても、平成22年度の保険料率(現状82‰)は、少なくとも2-3‰、準備金残高をある程度確保するには5-6‰は引き上げが必要となることが予想されます。

一方、年金決算は、桁違いの赤字です。昨年度後半にリーマン・ショックが起こり、年金資産の運用環境は大幅に悪化し、厚生年金の運用利回りは▲6.83%と過去最大のマイナス運用でした。その結果、時価ベースの積立金を前提とすると、実質13兆5,400億円の赤字となりました。積立金の残高も、時価ベースで、116兆6,500億円と前年度末130兆2,000億円と比べて13兆5,300億円減少しました。国民年金も同様の状況で、運用利回り▲7.29%で実質1兆3,000億円の赤字です。年金決算の場合、単年度の収支差に一喜一憂すべきではないかもしれませんが、趨勢として年金給付費等の歳出が保険料収入等の歳入を上回ってきており、決して楽観視はできません。

平成16年の年金改正において、平成29年以降、厚生年金保険料は18.3%(平成21年9月から15.704%)、国民年金保険料は16,900円(平成21年9月から14,660円)で、固定されることになっています。しかし、その後の経済環境の変化、少子化・高齢化の進展により、想定している年金給付の所得代替率が50%を切る状況も、現実味を帯びてきました。

衆議院選挙の結果如何によっては、医療保険制度および年金制度の構造が大きく変わるかもしれませんが、嵐山で感じた爽やかな風が、背筋が寒くなるような風にならないように願うばかりです。

 窓近き 竹の葉すさむ 風の音に
                       いとどみじかき うたたねの夢  (式子内親王)

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