シンクロナイズするか、日米投資循環

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2009年08月06日

  • 大和総研 顧問 岡野 進
日米の設備投資循環の関係に大きな変化が起きているかもしれない。

かつて日米の設備投資循環はかなりはっきりとした逆相関の関係にあった。つまり、日本が設備投資循環上の拡大局面にあるときは米国が調整期にあり、逆に日本が調整期にあるときに米国が拡大期にあるといった補完の関係にあったのである。

例えば、戦後の日米の設備投資循環を辿ってみよう。
(1)日本での戦後最初の設備投資ブームであった岩戸景気(1959-1961年)は、米国が1957年までGDP比で10%を超えていた設備投資が9%未満に低下していく時期に当たっていた。 
(2)日本の岩戸景気後の調整期(1962-1965年)は米国では1966年に向けて設備投資を中心にした好景気が起きており、NYダウも1000ドルへと上昇する過程にあった。
(3)その後の米国においては本格的なストック調整は起きなかったが、GDP比で設備投資が横ばいとなる時期がくる(1967-1972年)においては、日本はいざなぎ景気とその後の過剰流動性景気という設備投資ブームの時期を迎える。
(4)第1次オイルショック(1973年)では世界同時不況となったため、日米ともに設備投資は不振であった。しかし、米国は大好況とは言えないが、1976-1981年に商業施設投資などを中心に設備投資がGDPの成長を引っ張っていく要素となっていたのに対し、日本では停滞が継続した。
(5)1986年の円高不況から平成景気へと移行すると、日本は設備投資ブームとなり、建設投資のブームは岩戸景気以来となった。一方、米国は設備投資が停滞を続けていた。
(6)90年代に入ると、日本の「バブル」ははじけ、設備投資景気は急速にストック調整に入っていった。これに対して、米国はS&L危機を脱した後、1994年ころからIT投資を先導役とする設備投資ブームへと移行する。

上記のように戦後から2000年ころまで、日米の設備投資は補完的な中期循環を示しており、実は欧州も日本と似た周期での変動を行っていたため、米国vs日欧で設備投資景気をキャッチボールして世界景気を安定化する枠組みがあった、とも言うことが出来るのではないだろうか。

ところが、21世紀に入ってからの新興国の成長が際立ってきた世界経済の姿はそうした日米間の循環の周期差に変化をもたらし始めた可能性がある。2003-2007年の景気拡大においては日米ともに中規模であるが設備投資の拡大を同時的に経験し、現在同時的に調整過程に入っている。今後、投資ブームのキャッチボールは先進国vs新興国という枠組みで行われていくようになる可能性もでてきた。そうなると日米間の設備投資はシンクロナイズしていく可能性が高く、経済政策の面でも運用面でもより協調的なあり方が求められてくるかもしれない。

設備投資のGDP比

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