企業におけるパンデミック対策

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2009年08月05日

  • 田中 栄次
豚に由来する新型インフルエンザ(A/H1N1型)の発症が確認されてから約3ヶ月が過ぎた。WHO(世界保健機構)の発表によると、全世界の感染者は13万人、死亡者は800人を超え、我が国においては死亡者こそ出ていないものの感染者は5,000人に達している。
当初はインフルエンザの毒性や感染力などについて不詳であったこともあり、初めて国内感染者が確認された大阪府と兵庫県では学校が一斉に休校とされ、店頭のマスクが品切れとなるなど大騒動となったが、弱毒性であることが判明した後、事態は徐々に沈静化に向かっている。

一方で、冬季を迎えた南半球の豪州や南米、および東南アジアでは感染の拡大が続いている。6月11日にはWHOによる警戒レベルが、パンデミック(世界的大流行)を意味するフェーズ6に引き上げられている。秋口以降には、日本においても通常の季節性インフルエンザに加えて、第2波として再びA/H1N1型が流行する懸念もある。
新たな強毒型インフルエンザが大流行する危惧も捨てきれない。鳥由来の新型インフルエンザ(A/H5N1型)は、ベトナム、インドネシア、エジプト、中国などで断続的にヒトへの感染が確認されており、WHOへの報告ベースで、その発症者は436人、そのうち262人は死亡に至っている。
強毒性かつ感染力が強い新型インフルエンザが流行した場合には、出社を含めてヒトの移動が長期間に渡って大きく制限され、したがって企業経営に多大な影響を及ぼすことが予想される。

日本経団連が7月30日に発表した「新型インフルエンザ対策に関する企業アンケート調査結果」によると、BCP(事業継続計画)を策定済みの企業は約30%に過ぎない。各企業においては今回の一連の経験をよい教訓として、新型インフルエンザの再度または新たな大流行に早急に備えていくことが必要であろう。
BCPの策定に当たっては、従業員と家族の安全を確保することが第一となるが、自社の社会的責任やバリューチェーンを形成する取引先との関係、自社業績への影響なども吟味した上で、「優先して継続すべき重要業務」と「場合によっては中断する業務」など優先順位を付けておくことが肝要である。
また、最悪の事態を想定した対策や計画に加え、複数のシナリオを想定した柔軟な対策を検討するなど、より実践的で幅のある準備を進めることが望ましいであろう。

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