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「モノ余り」の時代の小売の覇者は誰なのか?

2009年07月30日

土屋 秀文

「モノ不足」と「モノ余り」のときでは、同じモノを消費したとしても満足感は異なるようです。満足感は相対的なものであって絶対的なものではないのです。このことを18年前、種子島宇宙センターにロケット打上げ隊の見習い隊員(※1)として長期出張した際に体感しました。8月のお盆の頃でした。台風による暴風雨が激しくなり、港に船が接岸できなくなり、空港も閉鎖されました。食料などの物資が本土から届かなくなり、種子島が孤立した状態となったのです。新聞も届かず、情報源は東京から届くファックス、電話、テレビ、ラジオしかありません。しかも、滞在先の旅館の食事は毎日同じような冷凍食品等の保存食が中心となりました。近所の食堂も同じような状態です。こうした閉鎖された空間(地域)におけるモノ不足の状態では選択の余地がありません。東京へ帰ることもできず、やむを得ず、限られた選択肢の中で割高と感じても満足するしかありません。不思議なものでこの状態が数日続くと馴れてしまうものです。東京では空腹は満たすものの特に美味しいと思えなかったインスタント食品ですら、魅力的なものに見えました。このように、モノ不足のときの期待感は低くなるのです。終戦直後から高度成長期(20世紀)はモノ不足の状態にあったため、当然ながら良いモノを作れば売れたのです。

しかし、モノ余りの時代となった21世紀では、新幹線、高速道路等の高速交通機関が発達し、誰もが全国各地に短時間で移動できます。地方都市の住人が東京や大阪など大都市に出掛けることは特別なことではなくなりました。例えば九州地区では、長崎や大分から高速バスや特急列車で福岡市(天神)へ買い物に出掛ける若者が多くなりました。地元の限られた選択肢の中で消費するのではなく、遠くであっても選択肢の多いところへわざわざ出掛けて消費するようになったのです(ストロー現象)。しかも、地方都市の住人であっても、最新情報をマスメディアやインターネットからタイムリーに入手することが出来ます。こうしたことから、地方都市の住人であっても、消費に対する期待感は20世紀とは比較にならないほど大きくなりました。

では、「モノ余り」の時代の小売の覇者は誰なのでしょうか?20世紀には、百貨店や総合スーパーが、幅広い客層を取り込むことで成長を実現しましたが、いまや青息吐息です。特に、百貨店では平成不況の影響もあり、欲しいモノがあっても大衆には高すぎて買えないような状態です。しかも、販売しているモノは高級ブランド品など無くても生活には困らない商品が中心です。一方、大衆を味方につけた業態もあります。SPA(アパレル製造小売)のユニクロ・ハニーズ・西松屋チェーン、大型家電量販店のヤマダ電機・ヨドバシカメラ、ドラッグストアのマツモトキヨシ、家具のニトリ・大塚家具、玩具のトイザらスといったカテゴリーキラーと呼ばれる業態です。(1)特定分野に絞り込んで、(2)多様な品揃えを実現し、(3)驚きの価格で販売しているのです。この他にも、駅空間を活用した小売業態のJRの「エキナカ」や地下鉄(東京メトロ)の「エチカ」等、消費者の支持を集め、急成長する新しい業態も登場しています。万事に通用する成功の方程式は存在しないようですが、少なくとも、モノ不足の時代の成功体験の呪縛に囚われずに、新たなビジネスモデルを探求することが、モノ余りの時代の小売の覇者となる鍵となりそうです。

(※1)筆者の前職(宇宙開発事業団)での経験です。

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