L字型経済を織り込む企業

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2009年07月21日

  • 渡辺 浩志
7月初めの日銀短観で企業の設備投資計画は大幅に下方修正された。短観の設備投資計画は3月調査で控え目な見通しが出た後、6月調査では上方修正、それもやや大きめの修正が入ることが通例であり、今回の異例の下方修正は市場に対してサプライズとなった。

これは今まさに企業の将来の経済見通し(期待成長率)が大きく下方修正されつつあることを素直に反映したものだろう。設備投資は期待成長率に見合った設備ストックを確保するためになされる。期待成長率が下がれば、必要設備ストックの水準も下がるため、設備投資も下方修正されるということだ。

そこで、設備ストック、設備投資、期待成長率の3つの関係を表す資本ストック循環図を元に、企業が今どれほどの期待成長率を考えているのかを見ると、若干のマイナス成長であることがわかる。期待成長率は数年先までの平均的な経済成長率の見通しを表すから、企業は経済が当面底這い状態を続けることを設備投資計画に織り込んだことになる。足下、景気は輸出や生産に反動増の動きがあり底打ちしているが、企業はこれをL字型経済の中の一時的な動きとみているということだろう。

また、短観の通り設備投資を減らすと、設備投資水準は減価償却費を大きく割り込むことになる。これはすなわち、設備ストックの増強分が目減り分を下回る状態であり、設備ストックの削減を本格化させる計画であることの表れと解釈できる。企業は需要が戻らないなら、設備ストックという供給力を削減する必要があると考えるのである。供給力の削減は設備にとどまらないだろう。短観に見る新卒採用計画は09年度は8.2%減、10年度は23%減となった。今後は雇用にもストック調整圧力が増すことになるだろう。

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