「当期純利益」とは何か?その範囲の見直しが進行中

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2009年07月02日

  • 吉井 一洋
国際会計基準の導入に向けた動きがにわかにあわただしくなると共に、「包括利益」が注目を集めている。包括利益とは、期首と期末の純資産の差額のうち資本取引を除外したものであり、「当期純利益」と「その他の包括利益」の合計からなる。

「その他の包括利益」には、日本の基準に置きなおすと、「その他有価証券」の時価の変動、為替換算調整勘定の変動、繰延ヘッジ損益の変動が含まれる。したがって、「包括利益」は、時価評価ベースの当期純利益とも言い換えることもできる。

国際会計基準と米国基準では、すでに「当期純利益」と併せて、「包括利益」を表示している。IASB(国際会計基準審議会)とFASB(財務会計基準審議会)は、現在、財務諸表の様式の見直しを検討しているが、当初は「当期純利益」を廃止し「包括利益」に一本化することを目指していた。しかし、これには反対意見も多く、2011年-即ち、米国のSECが国際会計基準を米国企業に強制適用するか否かを判断する年-までに一本化することは困難が予想された。そこで、当面は「当期純利益」を残したまま、「包括利益」と二本立てで表示することとした。
 国際会計基準において当面「当期純利益」が残ることで、胸をなでおろした企業は多いと思われる。しかし、現在、この「当期純利益」に何を含めるかについて、見直しが進行中である。大きなものとして、次の二つが挙げられる。

一つは、持ち合い株式や政策投資株式などの売却益である。IASBとFASBはロンドン金融サミットの要請もあり、金融商品会計の見直しをスピードアップして検討中で、09年7月に、評価方法の見直し案を公表する。見直し案では、株式は時価(公正価値)で評価し、時価の変動は、原則、損益に計上するが、売買目的以外の株式ついては、企業の指定により、時価の変動を当期の損益ではなく「その他の包括利益」に計上できることとする方向である。この取扱いが認められれば、持ち合い株式や政策投資株式について、これまでの取扱いと変わるところは無い。しかし、現在検討されている案では、これらの株式を売却した際の売却益も当期の損益に計上せず、「その他の包括利益」に計上する方向で検討している。企業が株式の益出しにより当期の損益を操作することを防止するという点では、妥当な処理であるように思われる。ちなみに、この場合、配当も「その他の包括利益」に計上する。このような改正が行なわれれば、銀行や保険会社の純投資の株式は、時価の変動を当期の損益に計上する方法を選択せざるを得なくなろう。

もう一つは、年金の積立不足額の取扱いである。国際会計基準では年金の積立不足額の純額の変動(過去勤務費用と数理計算上の差異の発生額)を、期間配分せず、当期の損益に計上する方向で検討している。このような改正が行なわれれば、当期純利益は、年金債務の変動によって大きく変動することになろう。そのような当期純利益が、企業の業績を表しているといえるのか、大いに議論されることになろう。

これらは、ある意味「包括利益」の導入以上に大きな影響を与えるものと思われる。見直しの行方を大いに注目していく必要がある。

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