比叡山借景に想う

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2009年06月30日

  • 菅原 晴樹
比叡山の借景が見たくて、京都へ向かいました。
比叡山を借景に取り込んだ庭園は修学院離宮上御茶屋を始めとして、いくつかありますが、個人的に心惹かれるのは岩倉の円通寺と西賀茂の正伝寺です。
まずは円通寺へ。地下鉄北大路駅からバスに乗り継いで20分ほどで、後水尾天皇が営んだ幡枝御所の離宮跡の寺院に着きました。本堂から眺めると一面を苔で覆われた庭に数十個の石が置かれ、ツツジ、サザンカなどの生垣、杉木立の間に竹林があり、その先に比叡山の稜線が美しく見えました。寺の周辺は近年開発が進み、著しく景観が損なわれる恐れがあることから平成19年に施行された「京都市眺望景観創生条例」により、建物の高さだけでなく、屋根の形も制限される対象地区になりました。いつまでもこの美しい借景を眺められることを願いながら、次の目的地、五山の送り火の「船形」の船山の麓にある正伝寺に向かいました。白砂が敷き詰められた庭は白壁に囲まれ、円通寺とは趣を異にします。白壁の外には紅枝垂れ桜が植えられていて満開のときは鮮やかにその存在感を表します。小堀遠州作と言われ、ツツジが築山風に刈り込まれ七五三形式に配されています。そして、はるか遠くに見える比叡山を借景としています。白色と緑色だけのシンプルな空間ですが、時を忘れていつまでも居続けたくなるほど心が落ち着きます。この「獅子の子渡しの庭」を眺めていて、ふと頭を過ぎったのが「公的年金の世代間格差」のこと。
5月26日厚生労働大臣の諮問機関である「社会保障審議会年金部会」で「平成21年財政検証関連資料」として、世代間の保険料負担額と年金給付額の関係についての試算結果が示されました。試算の前提条件について議論が分かれるところですが、その結果のうち、厚生年金(基礎年金を含む)では、1940年生まれの者は負担額に対して給付額が6.5倍、1985年生まれの者は2.3倍。国民年金では、1940年生まれの者は4.5倍、1985年生まれの者は1.5倍となっています。平成16年財政再計算時の給付負担倍率と比較すると、現在の受給者世代の倍率は厚生年金、国民年金ともに増加し、他方、後世代の倍率は、国民年金について減少した結果となっています。
今後、少子高齢化が進む中、現在の賦課方式に基づく社会保険料方式では、早晩、公的年金制度が機能不全に陥るのは確実です。
確かに複雑な方程式を解くような困難さはありますが、世代間の給付負担倍率のアンバランスを解消する方策のひとつは、消費税のような現役世代および年金世代も同様に負担する税金を財源とすべきではないでしょうか。現在受給者の年金額を減額することは現実的ではありません。すでに保険料負担を完了した年金世代に、改めて負担を強いるのは心苦しいのですが、給付負担倍率にこれほどの世代間格差が生じる結果を目の当たりにすると、後世代の子、孫のための制度改革に踏み込むべきです。将来的には、公的年金は老後の最低保障機能にとどまる可能性が高いと思われます。若い世代は、公的年金だけに頼ることなく、企業年金、そして自助努力による貯蓄、投資を早い段階から長期的・計画的に進める必要があると思います。
親が、子、孫を大切に思う気持ちは強いでしょう。しかし、子、孫はそれに甘えることなく、自身で老後に備えることが少子高齢社会という「川」を渡っていくための知恵ではないかと「獅子の子渡し」を見ながらその思いを強くしました。
帰りこぬ 昔を今と 思ひ寝の
                   夢の枕に にほふたちばな  (式子内親王)

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