経済危機で結束が強まる中華経済圏

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2009年06月29日

  • 肖 敏捷

中国政府は常に「3T」と言われる内政問題に神経を尖らせてきた。チベット問題(Tibet)、天安門事件(Tiananmen)、そして台湾問題(Taiwan)である。しかし、この3つの「T」のうち、1つが消えるかもしれない。08年5月20日に台湾国民党が8年ぶりに政権を奪回したことを契機に、中台関係は急速に改善に向かい、中国政府が懸念している台湾独立というリスクが大きく低下したためだ。

馬英九政権発足後の中台関係の歩みを振り返ると、国民党と共産党のトップ会談の実現、直接対話の再開、「三通」(通信、通商、通航)の実現など、僅か1年間でここまで急展開したことは予想外である。独立志向が強く、中国政府に挑発的な発言を繰り返してきた前政権に比べ、馬政権は「一つの中国」の立場を明確にしている。台湾が独立さえ主張しなければ何でも応じる、というのが中国政府の方針である。台湾に対し、オブザーバーとして世界保健機関(WHO)総会への参加を容認したことは、「魚心あれば水心」の表れであろう。

また、これまで「ヒト・モノ・カネ」の流れは、台湾から中国大陸への一方通行であったが、ようやく中台双方向の交流が実現することになった。台湾政府は、中国からの観光客や直接投資の受け入れに加え、金融機関の相互設置などを承認する立場に転じたのである。台湾の「香港化」を警戒してきた台湾政府に方針転換を促したのは、言うまでもなくグローバル金融・経済危機である。深刻な不況は、中国経済の活力を取り込むことに対する政治的な抵抗を弱めたのである。中国政府が企業連合による大型購買団を台湾に派遣するなどのアピール作戦も功を奏したといえる。

一方、中台の急接近に対する香港の危機感が高まっている。「三通」が定着すれば、中継地としての香港の存在感が薄れかねないためだ。今年5月、香港と中国は市場開放範囲の拡大を盛り込んだ経済貿易緊密化協定(CEPA)の補足協定を締結した。香港の金融機関は、香港での人民元建て債券の発行が承認され、人民元のオフショア市場を目指すなど、地位低下に歯止めをかけるために必死である。これに対し、今年末、中国と台湾の間では、両岸経済協力枠組み協議(ECFA)が締結される見通しだ。今後、中国への過剰依存に対する警戒感が高まりかねないが、経済危機を契機に中華経済圏の結束が強くなれば、東アジア地域の地政学リスクは低下する。また、中国市場の開拓に本腰を入れる日本企業にとっては、香港や台湾を活用しやすくなるだろう。中華経済圏の連携強化から目が離せない。

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