資金移転としてみる定額給付金
2009年06月18日
大規模自治体での給付は6月までかかっているところもあるが、そろそろ皆さんのお手元にも定額給付金が届いている頃ではないだろうか(※1)。
定額給付金については、当初よりバラマキであるとの批判や景気対策として効果がほとんど期待できないなどの見解があり、総じてマスコミ報道はマイナスイメージであった。しかし、資金移転としての定額給付金は興味深いと考える。
景気対策とは違った角度で見てみると、所得税等の減税にしても定額給付金にしても、税金などで政府部門が集めた資金を家計部門に返還することであり、さらには資金の使途決定権を家計部門に委ねることでもある。経済的な厚生を最も効率よく高める資金使途が明らかな場合、政府主導で資金を投じるのは効果的である。しかしそうした資金使途が明らかでない場合、多くの意思決定主体(個々の家計や企業)が使い道を決めた方が、より良い使い方となる可能性が高いであろう。
マクロ経済的観点からすれば、所得税等の減税も定額給付金も、政府部門から家計部門に資金を移管するという意味では同じである。しかし、定額給付金は納税額の多寡や有無に関わらず、人員数と年齢という基準のみによって給付されることになるので、自ずとミクロ経済的観点では各種減税と異なった様相を持つこととなろう。
若年層と高年層に上乗せ給付しているため、都道府県ごとの一人当たり定額給付金は首都圏、中京圏、関西圏などの大都市圏や宮城県や福岡県など地域の中核的な都市を抱える県で低くなっており、東北日本、山陰、四国、九州・沖縄などで経済規模に対して相対的に定額給付金総額が大きくなっている。多少なりとも地域的な所得再分配が実施されたと考えることもできる。
また、地域ごとの消費構造が異なるため、影響の出方も異なると考えられる。例えば、追加的な収入の支出先となる可能性が高いと思われる「対個人サービス」は、産業連関分析などから大都市圏に比べて地方圏のブロックにおいてより波及効果が大きいと推測される。
定額給付金の景気対策としての効果については今後の各種分析に期待するとして、前述のように考えると、金額がもっと大きければより興味深い事象が観察できたと思われる。資金使途を政府部門から家計部門へ委ねるだけでなく、中央から地方へと委ねるという側面も考えられ、大げさにいえば、消費者主権や地方分権といった方向性と合致したものともいえるからである。直接的な資金移転としてとらえるならば、定額給付金も捨てたものではないといえよう。
(※1)定額給付金は、基準日(平成21年2月1日)において、住民基本台帳に記録されている者等の給付対象者1人につき1万2千円、65歳以上の者及び18歳以下の者については2万円を給付する。
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