平成19年度・大学法人の収支性指標の概観
2009年06月17日
平成18年度に学校事業収支が事業外収支をはじめて下回ったが、19年度も同様の状況が続いている。但し、18年度は帰属収入(※1)に対する学校事業収入と事業外収入の寄与度がともに0.6%に並んでいたものの、19年度は学校事業収入が2.5%、事業外収入が0.5%と通常ペースに戻っている(表1)。かねてより筆者は学校事業収支の黒字幅が縮小している最大の要因は、学校事業収入のコア収入である学生生徒等納付金の伸び率が学校事業支出のコア支出である人件費の伸び率を恒常的に下回っていることにあると指摘してきたが、こうした状況は依然続いている。ちなみに、平成11年度以降の学生生徒等納付金と人件費の前年度増加額をみても、前者が後者を上回ったのは11年度と14年度のみである(表2)。
(注)小数第二位での四捨五入のため、合計が一致しない場合がある。(出所)大和総研公共政策研究所作成
(出所)日本私立学校振興・共済事業団「今日の私学財政(大学・短期大学編)」平成15、20年度版から大和総研公共政策研究所作成
主要指標をみてみよう。平成19年度は帰属収入が前年度比3.0%増となったものの、消費支出(※2)が前年度比3.9%増となった。その結果として、企業の使用総資本事業利益率(ROA)に該当する「{(学校事業収入-学校事業支出)+事業外収入}/総資産」は2.0%、売上高経常利益率に当たる「帰属収支差額/学校事業収入」は6.2%と代表的な指標はいずれも横ばいもしくは低下している。
「人件費比率=人件費/帰属収入」 は帰属収入の伸び率(前年度比+3.0%)が人件費の伸び率(同+2.3%)を上回ったため49.6%に低下する一方、「人件費依存率=人件費/学生生徒等納付金」 は91.7%と平成10年度以降で最高となった。「教育研究経費比率=教育研究経費/帰属収入」は平成11年度以降連続で上昇している。
「借入金等利息比率=借入金等利息/帰属収入」は0.4%と低位横ばいであり、企業の有利子負債金利に当たる「借入金等利息/(長期借入金+短期借入金+学校債)」は2.358%と18年度より0.217%上昇した。一方、「受取利息・配当金等/(有価証券+貸付金+引当特定資産等+現金預金)」は1.621%と前年度比0.298%上昇し、平成10年度以降で最も高くなっている。
「学生生徒等納付金比率=学生生徒等納付金/帰属収入」は54.0%に低下し、平成10年度以降で最低を更新した。「寄付金比率=寄付金/帰属収入」は2.7%と前年度比0.3%ポイント上昇する一方、「補助金比率=補助金/帰属収入」は10.2%と低下し、平成10年度以降で最低となった。「事業収入/帰属収入」は24.5%、「資産運用収入/帰属収入」は3.1%といずれも平成10年度以降で最高となっている。
以上みてきたように財務指標は全般的に大学を取り巻く環境の厳しさを反映する形となっている。
(※1)帰属収入=学生生徒納付金+手数料+寄付金+補助金+資産運用収入+資産売却差額+事業収入+雑収入
(※2)消費支出=人件費+教育研究経費+管理経費+借入金等利息+資産処分差額+徴収不能額
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