改正薬事法の施行と今後のドラッグストア業界について
2009年06月15日
改正薬事法が2009年6月1日より施行された。同法施行規則(厚生労働省令)での通信販売の規制を巡る議論や、OTC(一般用)医薬品(大衆薬)の販売について、コンビニエンスストアによる本格参入や大手GMS(※1)による値下げなどのニュースを通じて、耳にされた方も多いと思われる。
今回の法改正の大きなポイントは、OTC医薬品を副作用によってリスク別に3分類したことと、最もリスクの高い第1類を除く、第2類、第3類のOTC医薬品を薬剤師以外でも販売できる登録販売者という資格を新設したことなど、販売制度を変更したことにある。これによって、GMS、スーパー、ホームセンター、コンビニエンスストア、家電量販店などの他業態は、OTC医薬品の販売を本格的に行なうことにしたが、その背景は、次のように考えている。ドラッグストア市場は、2000年の2.6兆円から、2008年には5.2兆円と8年間でほぼ2倍の規模にまで成長しており、コンビニエンスストアなど他の小売業が成長鈍化の傾向にあるなかで、数少ない成長分野(市場)に映っている。その中でも、約1兆2,000億円といわれるOTC医薬品市場のうち、第2類、第3類のOTC医薬品は約3/4に相当する約8,700億円を占めているが、登録販売者を活用することでこれらを取り込むことを目指している。
他業態からの攻勢を受ける立場となるドラッグストア業界では、2006年に改正薬事法が制定された段階から、売上高1,000億円を生き残りの目安とし、中堅ドラッグストア同士の経営統合や売上高300億円規模のドラッグストアを買収するなど業界再編に向けた動きが活発化してきた。足元でも、大手ドラッグストアが中心となり、規模の拡大(ナショナルチェーン化、地域ドミナント化)によって企業体力の増強を目指すM&Aも盛んに行なわれている。また、規模を追求する動きと平行して、ドラッグストア側は企業体力で勝る他業態との差別化を図る意味からも専門性の強化による質の追求を今後の重点戦略に掲げており、(薬剤師を多く抱える強みを活かす形での)調剤分野の強化や、介護、医療分野への進出など事業領域を広げる動きも見せている。
今後のドラッグストア業界を見通せば、同業他社や他業態との競争が激化するだけでなく、消費者の低価格化志向に拍車がかかることでのマージン低下やふたつの2010年問題(※2)(※3)など、業界を取り巻く環境は不確実性を増している。こうした中で、ドラッグストア業界再編の動きはより進展すると予想され、また、業界内の合従連衡に留まらず、他業態との経営統合など小売業界の新たな再編に結びつく可能性も考えられる。
(※1)General Merchandise Store:総合スーパー
(※2)薬学部が6年制に移行したことで、2010年から2年間、薬学部卒業生が不在となり、薬剤師の採用に支障が生じること
(※3)2010年度に薬価、調剤報酬の改定が予定されていること
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