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タンジビリティ:資産の実体価値を勘案した投資指標

2009年06月04日

吉野 貴晶

2007年半ば以降、深刻化した金融危機や世界景気の急落の影響で下値を探る動きが続いた株式市場も新年度以降は明るさを取り戻している。2年間に亘り市場の混乱が続いたためPER(株価収益率:株価÷1株当りの利益)やPBR(株価純資産倍率:株価÷1株当りの株主持分資本)などの多くの投資尺度が効果を失った。

この間に、新しい投資尺度も登場した。代表がアクルアルズである。アクルアルは会計用語で「見越」を意味する。未だ会社が実際にオカネを得ていなくても、将来オカネを得ることを見越し、利益として決算書に報告することだ。アクルアルにズをつけてアクルアルズにするのは、これに「繰延」「配分」という処理を合わせて複数形にしたものだからだ。何れも実際にオカネを会社が受け取っていない部分である。そのため、企業が報告している利益のなかで見越して計上している部分でなく、実態をつかみたい場合にこのアクルアルズを用いる。そして通常、このアクルアルズはPERと合わせて使うと効果的だ。PERは利益の何倍まで株価が買われているか?を見るものである。この元となる利益がどの程度実態を表すか?をアクルアルズで補完的に見るのだ。低PERでアクルアルズが良い銘柄を利益の質が良い低PER株と呼ぶ。

ところで漸く株式市場も日経平均が年初来高値を更新するなど落ち着きを取り戻してきた。今まで投資尺度としての機能が低下していたPERやPBRの有効性も回復するだろう。今まで効果が悪かっただけに、そのリバウンドによる効果も期待できる。しかし筆者は「サブプライムショック前に見たような投資尺度の効果は、復活しない」と考える。何故なら投資尺度は経済の成長や企業業績の拡大などを前提とした上で有効性が高く発揮できるからだ。例えばPERであれば、将来、業績が拡大する局面では指標算出のベースである業績が成長するなら、株価が「高くても」利益の何倍まで買われたか、を表す。将来の業績が不透明では、この「高くても」という観点がなくなるため、PERの信頼性が厳しくなる。足元は景気に底入れ期待も高まっているが、期待先行の印象があるなかPERの有効性の回復は期待できるが、従来ほどの高い効果にはなり難いだろう。

PERと比べると、まだPBRは不透明感が強い環境での有効性は期待できる。これは決算書で発表される資産の価値は利益ほど変動が大きくないからだ。しかし、その資産の評価に関しても「質」が問われる時代となるだろう。企業が解散した場合に換金可能な評価額は決算書上の資産評価には表れないからだ。企業が保有する設備などの評価は、その企業が仮に解散した場合に換金される額とは異なるだろう。そこでタンジビリティという指標が注目される。アクルアルズが利益の質を示すように、タンジビリティは資産の質を示すものだ。タンジビリティは直訳すると「具体的な、実体のある」というものだ。近年、米国で開発された指標だが、実務的な担保価値をベースに、次のように掛け目を設定する。現金、預金と短期保有の有価証券は100%で評価するが、売上債権は71.5%、在庫は54.7%、そして有形固定資産は53.5%で評価する。企業が決算書で発表する総資産の額に対して、これらの掛け目で算出した資産評価の割合がタンジビリティだ。今後はPBRにタンジビリティをあわせた指標が注目されるだろう。

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