ケインズ的失業とエコカー助成金

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2009年06月03日

  • 牧野 潤一

昨年秋以降、日本経済は急激な悪化となったが、一方で価格は意外に落ちついている。例えば、乗用車生産をみると、生産はピークから64.3%減少したが、乗用車価格は、ほとんど変わっていない。これは生産者が価格を維持するように生産を抑制しているためと考えられる。

一般に不況期には、価格は下方硬直的となる反面、生産は急激に減少する。このため大幅な人員削減が行なわれ、景気はさらに悪化する。これは大恐慌期に英国の経済学者J.M.ケインズが指摘した価格の硬直性による失業増大の考え方である。
それまでの経済学では、価格は柔軟に動き、価格下落の下で数量が回復するという古典派経済学が主流であったが、大恐慌や現局面がそうであるように、現実経済は、柔軟で滑らかなものではない。経済はどこか歪でごつごつとしており、市場の失敗が起こりやすい不完全市場と言える。こうした不完全市場に対してケインズの処方箋は、財政出動による有効需要追加であった。このケインズ政策は現在、日本を問わず、各国政府が取り組んでいる。

これに加え、日本、欧州各国が打ち出しているのが、エコカー減税による買い替え促進である。日本では13年以上経過した中古車を廃棄してハイブリッド車などの高燃費車に買い替えた場合に1台当り25万円を助成、ドイツで9年以上使用した車の買い替えに2500ユーロ(33万円)を助成、フランスでは10年以上使用の買い替えに1000ユーロ(13万円)を助成する。
これは画期的な政策と言える。自動車のような耐久消費財は本来、需要の価格弾性値が大きく、値下げによる需要創出効果が大きいからである。これは97年の消費税率引き上げ前の駆け込み購入をみても明らかである。ドイツでは2月の政策導入から買い替え需要が急増。3月の新車販売は前年比4割増となった。日本では4月の導入から間もないが、今後45万台以上の需要が喚起されるとの試算もある。こうした補助金政策は、価格弾力性が高い耐久消費財全般に適応でき、家電のエコポイントもその一つと言える。

本来なら、生産者が価格を下げれば良いのであるが、それを補助金によって政策的に引き下げ、あたかも政府が古典派経済学が想定する世界を作り出している。こうした経済政策の複合は、ある意味でケインズ経済学と古典派経済学の政策的協調とも言え、経済政策の選択肢が広がる。その需要創出効果はまだ未知数であるが、大いに期待したいところである。

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