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気の長い欧州の時間

2009年05月20日

経済調査部 経済調査部長 山崎 加津子

5月7日、チェコがリスボン条約を批准した。これでEU(欧州連合)に加盟している27カ国のうち26カ国が批准を終えたことになる。リスボン条約とはEUの基本条約となるべきもので、1957年に調印されたローマ条約に始まり、現在効力を有しているニース条約まで続くEU基本条約の新たな後継者である。6カ国でスタートしたEU(当時はEEC)は、当初の関税同盟から、政治や外交面での共通政策の導入、単一通貨ユーロの導入と発展し、それに応じて基本条約も更新されてきた。例えば1993年に発効したマーストリヒト条約では、冷戦終結後の新たな世界秩序の中で欧州の結束を一段と強化することが目指された。中でも大きな変化が単一通貨ユーロの導入を定めたことで、財政赤字抑制や物価安定など5項目の通貨統合参加資格は「マーストリヒト基準」と呼ばれている。

2003年発効のニース条約はEUへの参加国を27カ国までしか予定しておらず、EUと加盟交渉中のクロアチアやモンテネグロなどの参加に対応できない。また、加盟国増加で各国の意見集約がむずかしくなるが、EUの重要決定事項の多くが依然として全会一致を原則としているため、効率的な決定ができないことが従来から懸案となっている。この事態を打開しようと準備されたのがリスボン条約で、EU拡大に対応し、EUの決定において全会一致の決定事項を減らしたり、現在は半年ごとの持ち回りとなっているEU議長の任期を2年半に延長することなどを盛り込んでいる。リスボン条約成立には27カ国が一致して批准・承認する必要があるが、チェコの批准で残るは10月までに予定されているアイルランドでの国民投票での可否のみとなった。

ただ、アイルランドは2008年6月にリスボン条約の是非を問う国民投票を実施し、これを否決してしまった実績がある。アイルランド政府は2度目となる次回の国民投票に際しては、他の26カ国が批准を済ませた中でアイルランドが孤立するわけにはいかず、EUの中で発展することが国益にかなうとして国民を説得する意向である。過去1年で金融危機が深刻化する中、アイルランドでは大手銀行の財務内容の悪化が著しく、欧州の中でも景気悪化がもっとも厳しい国の一つである。EUの一員であることのメリットを訴え、国民投票への参加率を引き上げることができれば、次回はリスボン条約の承認にこぎつけるられるのではないかと予想される。実はチェコ、それにポーランドは議会は批准したものの、野党に所属するそれぞれの大統領がまだ署名を行っておらず、批准が効力を発揮していない。両大統領はアイルランドが国民投票でリスボン条約を承認することを署名の条件としている。

ところでこのリスボン条約だが、「EU憲法」という名前で2004年から2005年にかけて一度批准手続きがとられたものの、これに失敗した過去がある。2005年の時にはフランスとオランダの国民投票で否決され、お蔵入りとなってしまった。そのEU憲法から名称を変え、またあまりに煩雑とされた分厚い内容を整理して練り直したのが今回のリスボン条約である。EU憲法の準備期間から考えれば10年近くこの条約成立のために取り組んでいることになる。なんとも気の長いと感じられるかもしれないが、これが欧州では珍しくない政策策定のプロセスである。迅速性を求めるマーケットの時間とは異なる欧州の政治の時間だが、それがEUという大きな枠組みを決め、ユーロという通貨を作り出し、結局、経済やマーケットにも影響を及ぼすのである。

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山崎 加津子

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経済調査部長 山崎 加津子