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デフレ経済下の財務戦略

2009年05月12日

佐藤 祐一

大手の上場企業の中でも、昨年来、巨額の赤字決算に陥るところが増え、一部の企業では自己資本比率の急低下もみられている。各企業の財務体力に対して注目が高まっている。

ただ、財務体力の強化は一朝一夕では実現できない問題である。自己資本の充実を図る上で、増資は一時的な手段に過ぎず、内部留保の継続的な充実がより重要であると考えられるからである。内部留保の充実のためには、継続的な収益性向上が不可欠となる。企業の収益性向上は、言うまでもなく、企業のビジネスモデルのあり方そのものに関わってくる問題である。儲かるビジネスモデルがそう簡単には構築できないのは明らかである。 

ところで、下図は財務省の法人企業統計調査を基に、日本の全産業(除く金融保険)ベースの自己資本比率とROA(総資本営業利益率)の関係をみたものである。

自己資本比率とROAの関係 全産業ベース(除く金融保険)

ここから分かることは、収益性の向上(ROA上昇)と自己資本比率の上昇が同時にみられるのは1998年度以降の最近のことであるという点。それ以前、特に、70年代や80年代では、財務体力の強化よりも収益性の向上が重視されていたとみられる点である。

両者の違いは、経済環境の違いが背景にあると考えられる。
90年代以降は基本的にはデフレ経済で、名目GDP成長率は2000年代では平均ほぼゼロパーセントである。これに対し、70年代から80年代では、高度成長期の二桁の実質GDP成長率は平均的には半減するものの、インフレ率は現在より高く、80年代の平均名目GDP成長率は約6%あった。 

各年代別における自己資本、総資本、営業利益の平均増加率を比較してみた(下表参照)。 

平均増加率比較

やはり、2000年代において、総資本の増加率が極端に抑えられている点が注目されよう。70年代、80年代も自己資本の伸び率自体は2000年代以上に大きいが、これが最近のような自己資本比率の急上昇のようにはならなかったのは、企業規模(総資本)の拡大スピードが大きかったためと言える。

こうしたことを踏まえれば、70年代、80年代における企業活動の主眼は、倒産の危機の備えるために自己資本比率を高めるということよりも、企業規模を拡大しつつ利益を拡大することにあったと考えられる。
反対に、90年代以降は先行き不透明感が強まる中、企業行動の主眼も「守り」に入ったとみられる。このため、2000年代半ば以降、企業収益が好転してもいたずらに企業規模の拡大を図るよりも財務体質の強化を重視する傾向が強まった。

昨年来の世界的な金融・経済危機の中で、再び先行き不透明感が強まっている現下の状況では、2000年代に多くの日本企業がとってきた戦略は効を奏するとみられる。
今後の動向が大いに注目される。

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