MVNOの参入でM2M(機器間通信)の市場拡大が期待される

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2009年05月07日

  • 梶 宏行

4月22日、「ワンコイン通信100」というサービスがスタートした。通信ベンチャー企業のCSCによる無線接続サービスで、「月間定額100円」で無線データ通信が可能なサービスである。ただし、「月間送受信データ量が120kバイト(※1)まで」という条件がある。1パケット=128バイトなら937パケットであり、非常に少ないデータの送受信しかできない(※2)

実は、このサービスは個人のデータ通信向けではない。(Machine to Machine;機器間通信)と呼ばれる、携帯電話やPC以外の機器が行う通信を対象としたサービスである。

M2Mの用途は多様である。各種機器の監視、決済端末、銀行ATMなどが代表的だが、アミューズメント施設の「プリントシール機」で撮影データをメールアドレスに転送する用途なども含まれる。有線、無線ともに利用されるが、(1)移動端末で使用可能、(2)設置・移動・撤去が容易、といった利点から、最近は無線のものが注目されている。

M2Mは、用途にもよるが、一般に送受信データ量が小さく、監視用途なら1日あたり数十パケットで十分な場合も多い。半面、通信端末や回線料金に対する低コスト要求は強い。送受信データ量の絶対量が小さく変動も少ないので、ビット単位での割安感よりも回線単位での低価格が求められるようだ。

従来、NTTドコモやウィルコムが「月額数百円+従量課金」という低価格でM2M向け無線回線を提供してきた。しかし、端末数は約150万件(※3)にとどまり、潜在的な用途が多様で市場の広がりが見込めるわりには、普及が進んでいない。

普及の遅れの一因として、ソリューション提供者からみて、M2Mは手間がかかるわりに規模が小さい、という特徴が挙げられる。まさにロングテール市場であり、キャリアにとって、ボリュームの大きい個人向け音声・データ通信市場に比べ、M2Mにはリソースを割きにくい。

M2Mが一段の普及に向かうには、多様な潜在需要に対応したきめ細かいソリューションと、回線料金や通信端末価格のさらなる低価格化が必要と考えられる。

最近、MVNO(Mobile Virtual Network Operator)の動きが活発である。日本のMVNOの先駆である日本通信が矢継ぎ早に新サービスを発表する一方、新規参入も拡大した(※4)。キャリアが参入しにくい分野で、キャリアが実現しにくい価格体系を追求するのがMVNOの基本戦略であり、M2Mの市場は重要な事業機会のひとつである。現に、日本通信だけでなく、IIJやNTTコミュニケーションズも、M2M向けの新たなMVNOプランの提供開始を発表している。

もちろん、冒頭の「ワンコイン通信」もその一例で、M2M向けのMVNO事業を手がけるCSC社が、思い切った低価格で幅広い潜在ユーザーの発掘を狙ったものである。今後、MVNOやキャリアの競争を通じ、M2Mにおける無線通信が、価格面・仕様面でコモディティ化し、より使い勝手の良い「部品」となろう。SIerや各種機器メーカーなど、M2Mのソリューション提供者が、無線通信を「気軽に」提案できる環境が整っていくと期待される。

(※1)CSCによれば、ヘッダー情報等は含まない。

(※2)企業Webサイトのトップページを閲覧するだけで数千パケットに達する例も少なくない。

(※3)電気通信事業者協会(TCA)

(※4)NECビッグローブの「BIGLOBE高速モバイル」、IIJの「IIJモバイルサービス」、「IIJmio高速モバイル」など。

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