『日本の失われた十年』の10年
2009年05月01日
今年は、私の『日本の失われた十年』(日本経済新聞社)が出版されてから10年になる。この本を書いたのは、日本が「失われた十年」の大半をへた後だったから、当然、「失われた十年」を分析し、それを繰り返さないためにと思って書いたものだ。
しかし、「失われた十年」の後さらに十年たった今、悲しいことに、脱却したと思った「失われた10年」に戻っている。日本の実質GDPは2003年から2%で成長してきたが、エコノミストの予測平均では、08年度がマイナス3.0%、09年度がマイナス4.5%、2010年度がプラス1.1%である。すると、2000-10年の年平均成長率は1%以下で、「失われた十年」の90年代より悪いことになる。
自分の本を読み返してみると、金融政策とそれによって生じたデフレの害悪を強調している。これは正しいと今も思っている。当時もまた今も、銀行が不良債権を抱えたことが本質で、それを解決しないかぎり経済は回復しないという意見が強いが、本書はそれに懐疑的である。大企業は資本市場から資金調達ができ、中小企業は公的金融機関からできるからだ。公的金融機関の肥大化は望ましくないが、民間銀行を国営化するよりはましではないだろうか。ただし、今回の金融危機では、資本市場も傷んでしまったので、本書の懐疑論は、現状では正しくないかもしれない。
金融問題だけでなく、広く構造改革が必要なことも多々書いている。これは現在でも大部分正しいと思っている。インベストメント・バンクの経営が難しいのは、儲かっているのか損しているのかが分からないことだとも書いた。これはまったく正しい視点だと思う。儲かっていると思ってボーナスを払ったら、実は、損をさせられていたということは、90年代から繰り返していたことだった。にもかかわらず、インベストメント・バンク類似の企業は何も学ばず、損をさせられた人々にボーナスを払っている。今回の危機の原因に強欲さが有るのは間違いないが、この難しさについての無知と無能力、または無知と無能力を悪用したことに拠る部分が大きいのではないだろうか。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
メタバースは本当に幻滅期で終わったか?
リアル復権時代も大きい将来性、足元のデータや活用事例で再確認
2025年06月11日
-
議決権行使助言業者規制を明確化:英FRC
スチュワードシップ・コード改訂で助言業者向け条項を新設
2025年06月10日
-
上場後の高い成長を見据えたIPOの推進に求められるものとは
グロース市場改革の一環として、東証内のIPO連携会議で経営者向け情報発信を検討
2025年06月10日
-
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
-
「内巻」(破滅的競争)に巻き込まれる中国自動車業界
2025年06月11日