金融危機は急戦から長期戦へ

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2009年04月30日

  • 土屋 貴裕

2009年4月のIMF予想によれば、2007年から2010年にかけての世界の金融機関の損失は、4.1兆ドルが予想されている。今回から日本・欧州が予想の対象に加わったため、米国に限定すると、損失予想額は、2008年10月の1.4兆ドルから2.7兆ドルに増えていることになる。金額の多寡が話題になることが多いが、IMFがどういったところでの損失拡大を想定したか、といった点も重要であろう。なお、ここでの地域別とは、ローン(貸出)や証券化商品が組成された地域であって、金融機関の所在等ではない。

まず米国であるが、ローンと証券化商品の2者を比べると、08年までに先んじて損失予想の対象として拡大したのは証券化商品で、企業向け貸出等からの損失がこれに続いた。損失予想額は住宅ローン関係が大きく、損失予想額の半分強を占め、08年10月時点の予想と比較した拡大幅も大きい。すでに「サブプライム」関連については、損失計上のピークを越えているが、その他の住宅ローンはまだなお増えている。やはり住宅市場の問題は根深いようだ。だが、与信残高との比較では、商業用不動産関係や消費者ローン関係において損失率が高く、前回予想と比べてより損失の拡大が見込まれている。こうした証券化商品を対象としたTALF(ターム物資産担保証券貸出制度)が3月に導入された背景は、消費者ローン等の焦げ付きが徐々に増加し、おカネの巡りが悪化していることに対応したものと言えるだろう。

次に、欧州である。過去との比較ができないが、損失予想額は1.2兆ドルで、損失の発生が見込まれるのは、証券化商品ではなくローンの方が大きい。そもそもの与信残高の9割がローンであるため、損失総額も膨らんでいるわけだが、予想されている損失率は、証券化商品の12.6%に対して、ローンは7.9%である。米国と比べて与信全体の損失率は米国よりも小さくなる。

これらを踏まえて、今後について考えると、日本の経験をしても、経済が上向くまで損失の計上が続くことは自明である。問題は損失発生のペースであろう。金融危機の危機的状況はようやく小康を得た感があるが、それは証券化商品の損失計上が一気に進んだことでの、急激な悪化が落ち着きつつあるということだろう。ローンの焦げ付きが増えることは、証券化商品と比べると、評価損の計上などが遅れてじわじわ増加する可能性が大きい。また、部門別に見た場合、今後は、家計に対する与信からの損失拡大を見込む格好だが、一般に、雇用環境の悪化が景気に一致または遅行する。

金融機関の損失は、これからローンの損失計上という形で、長い戦いにシフトしつつあると考えるべきではないか。それは厳しい先行き予想だとしても、問題の対象が絞られつつあることは、対応策も講じやすいという楽観的な話でもある。

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