危機下におけるルール改訂のプロセスのあり方

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2009年04月28日

  • 吉井 一洋

2009年4月9日に企業会計審議会から監査基準の改訂に関する意見書が出され、20日に、関連する財務諸表等規則の改正が行なわれた。これは「継続企業の前提」の注記を見直すものである。

従来の制度では、「継続企業の前提」に重要な疑義を生じさせる事象や状況が生じた場合には直ちに「継続企業の前提」に関する注記が要求されるものと理解されていた。

改正後は、「継続企業の前提」に重要な疑義を生じさせる事象が生じた場合でも、経営者の対応策等を行なってもなお「継続企業の前提」に重要な不確実性が認められるときに限り、「継続企業の前提」に関する注記を行なうこととされている。重要な不確実性が認められない場合は、「事業等のリスク」としてその内容等を記載することとされている。

ただし、「事業等のリスク」は、監査対象外であることから、きちんとした記述が行われているかについて十分なチェックがなされないのではないかという懸念は残る。

この「継続企業の前提」は、投資家等の財務情報の利用者にとって極めて重要な情報である。にもかかわらず、この監査基準改訂案の意見募集期間は3月26日(財務諸表等規則の改正案の公表は27日)から4月3日までの1週間程度しかなかった。改正後のルールは、2009年3月期決算の財務諸表から適用されている。今回の改正の目的として国際的な実務との整合性も挙げられているが、むしろ、最近の企業業績の悪化を受け、「継続企業の前提」に関する注記が増加する可能性があることへの対処の面が強いと思われる。

昨今はわが国に限らず、会計関連のルールについて、従来のプロセスによらずに改正する事例が目立っている。例えば、IASB(国際会計基準審議会)は、EUの強い要請に応じて2008年10月に、公開草案の公表も行わずに、金融商品の保有目的変更の制限を緩和した。米国のFASB(財務会計基準審議会)も、2009年3月17日に金融商品の時価が投売り価格か否かを判断するための適用指針案、債券に関する減損を緩和する適用指針案を公表したがコメント募集は4月1日までと非常に短期間であった。

IASBの上記の対応は論外として、緊急対応のためコメント募集期間を短くすることについては、ある程度やむを得ない面はある。しかし、その目的はあくまで早期の対応が必要だからであり、募集期間を短くすることによって寄せられるコメントを少なくすることではないはずである。コメント募集期間を短くするのであれば、その短い期間でも多くの意見が集まるよう、改正案の正確な内容、議論の過程等について、通常のスケジュールで意見募集を行なう場合以上に、周知する必要があると思われる。

その点、今回の「継続企業の前提」の注記の見直しについては、意見募集の際には、企業会計審議会の議事録は公表されておらず、改正内容自体の周知性も高いとは言えなかった。また、一部ミスリーディングとも思える報道がなされていたのは残念なことである。

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