流動性相場から業績相場への移行なるか?

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2009年04月23日

  • 由井濱 宏一

アジア株(以下、MSCI Asia Pacific ex Japan 指数)は3月以降上昇ピッチを速めており、内外投資家のセンチメントが回復しているのは疑いのないところである。売買代金の拡大に加え、外国人投資家も徐々にアジア株に対して買い意欲を高めている。実際、韓国や台湾など、日々データが採取可能な市場で同投資家動向をみると3月後半から買い越し基調に転じ始めていることがわかる。

問題はこのモメンタムが継続するのかどうかである。これは、多くのアジア株投資家に共通した関心事項であり、投資期間の如何にかかわらず今後の投資戦略を策定する上で重要なポイントであろう。当方の見方では、現在の相場は悪材料を相当程度織り込んでおり、加えて中国を中心とした内外ファンダメンタルズに改善の動きが見られるため、株価は08年第4四半期の下値を下回る可能性は大幅に低下したと判断している。ただ、依然として期待先行を反映している部分が大きく、持続的な上昇トレンドとなるには企業業績見通しを中心としたファンダメンタルズの好転がアジア市場全体に広がってくる必要があるだろう。

これまでの上昇ピッチの速さや今後米国での不確定要因(決算発表や金融機関に対するストレステストの結果、大手自動車メーカの行方など)を勘案すると、一旦、利益確定の動きが広がり上値の重い展開となることが想定されるが、3カ月程度の投資期間を前提にすれば本格的な上昇局面に移行していく可能性が高まってくるとみられる。

こう考えるのは米国を始めとする世界の景況感が緩やかに改善に向かうと想定されるからである。アジア株と連動性の高い米国のISM指数が08年12月にボトムをつけた可能性が高いのは以前も指摘したとおりであるが、先進国景気の先行指数となるG7ベースのOECD景気先行指数(以下、景気先行指数と表示)とアジア株の連動も比較的高い。台湾や韓国など、世界景気との連動性が高い市場の存在が背景にあると思われるが、これら両者の関係もISM指数と同様、ボトムについては株価がやや先行する傾向が強い。

景気先行指数の直近値は09年2月分が4月10日に発表されたばかりであるが、前年比-10.21%となり、統計発表開始以来最大の落ち込みとなった1月を更に下回った。イタリアやフランスなどで落ち込みがやや緩和したものの、米国、ドイツ、日本の落ち込みが依然として激しく、全体として下落率の縮小には至らなかった。ただ、米国のISM指数との関係をみると、同指数の底打ちに伴って景気先行指数も反転につながるケースが多く、今後米国ISM指数が改善を継続すれば、景気先行指数の底打ちもそろそろ視野に入ってくる可能性は高い。早ければ3月分の数値が発表となる5月初旬頃には底打ちが確認されるだろう。

こうした先進国の景況感が重要なのはこれが、企業業績見通しにも影響してくる可能性が高いからである。生産や受注、輸出などマクロ指標が改善するに従ってアナリストによる業績予想も上方修正されていくことになる。実際、01年以降の景気先行指数とアジア株のリビジョンインデックスの動きをみると、景気先行指数の上昇に伴って業績の上方修正が増え(下方修正が減少し)、リビジョンインデックスも上昇に向かう傾向がある。

リビジョンインデックスを週次で確認すると、08年11月末の40%を超えるマイナス幅が徐々に縮小し、09年4月第2週時点では-3.88%と依然として下方修正の数は上方修正数を上回っているものの、その数は大きく減少してきている。アジア主要市場を個別で見ても、3月後半以降はそれまでの2桁台のマイナスが1桁台のマイナス縮小しており、悲観に振れていた業績見通しに明るさが見え始めている。景気先行指数の改善可能性を織り込み始めている可能性がある。

このインデックスは12カ月先行EPSに基づくものなので、現在の改善はおそらく10年には業績回復が顕著になるとの見方が増え始めていると思われる。リビジョンインデックスが現在のマイナス圏内からプラス圏に移行し、安定して推移していくようであれば流動性相場から業績相場へと徐々にその相場の性格が変化していくことになろう。

景気先行指数とリビジョンインデッックス 景気先行指数とリビジョンインデッックス

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