クラウドコンピューティングの担い手とは

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2009年04月20日

  • 丸山 将一

1943年、IBM初代社長のトーマス・J・ワトソン氏は、「恐らく世界中のコンピュータ市場の規模は5台だろう」と述べたといわれている。この発言の真偽は定かではないが、今日の情報化社会の発展を踏まえると、信じがたい内容である。しかし、2006年11月、サン・マイクロシステムズのCTO(最高技術責任者)グレッグ・パパドポラス氏は、この発言を引用して「世界は5台のコンピュータだけを必要とする」とブログにて述べたのである。実は、このところ世界のコンピューターリソースが極少数のクラウドに集中し始めている。

クラウドとは日本語で「雲」を意味し、IT業界ではインターネットを表すものでもある。正確には、「クラウドコンピューティング」と言い、インターネットを経由して、インターネット上に分散したコンピューターリソースを必要に応じて活用するサービスの概念である。これだけでは、現行のASP(※1)形態のアウトソーシングと変わらないと思われるかもしれない。特筆すべきことは、データセンターなどのコンピューターリソースの物理的な場所は隠蔽されており、ユーザーはどこでどのように計算処理さているか把握できないことである。しかも、クラウドプロバイダー間でインターフェースやデータベース等が標準化されていないため、ユーザーは特定のクラウドにロックインされてしまう恐れが強い。このようなサービスが、巨大なデータセンターを保有しいているグーグル、アマゾン、マイクロソフトといった極少数のプロバイダーによって提供され始めたということである。

このようなクラウドプロバイダーが提供するデータセンターは、数万から数十万レベルのサーバが設置されており、我が国の数千台レベルとは比にならないほど極限まで規模の経済性を追求している。規模の経済性に関して、ネットワーク、ストレージ、サーバ管理に要するコストは、5分の1から7分の1に低減との分析結果もある(※2)。また、エネルギー効率は、2倍程度に向上している(※3)

このような現実を目の当たりにして、我々はどのように対処すべきか熟慮しなければならない。 ユーザーとしては、選択肢が広がったことは歓迎すべきことである。ユーザーが抱える課題を解決するサービスがあれば、トータルコストとコントロールのバランスを考慮して採用すればよい。先ずは、ミッションクリティカルではない情報系業務から導入される傾向が高まるだろう。

一方、情報システムを構築してきたシステムインテグレーターとしては、クラウドコンピューティングの進展によるインパクトを無視することはできない。運用・維持コストで収益を支えてきた既存のビジネスモデルが破壊されるからである。

現在、クラウドコンピューティングをリードしているプレーヤーは、元々はネット上の本屋や広告屋であり、そのコンピューターリソースを開放したと捉えることもできる。そのように考えると、我が国でもシステムインテグレーターのビジネスモデルの破壊の進展に伴い、既存のネット企業から新たなプレーヤーが生まれるかもしれない。

(※1)Application Service Providerの略。

(※2)Michael Armbrust, Armando Fox, Rean Griffith, Anthony D. Joseph, Randy H. Katz, Andrew Konwinski, Gunho Lee, David A. Patterson, Ariel Rabkin, Ion Stoica and Matei Zaharia (2009) , "Above the Clouds: A Berkeley View of Cloud Computing" EECS Department University of California, Berkeley Technical Report No. UCB/EECS-2009-28

(※3)データセンターのエネルギー効率を示す指標の1つに「PUE(Power Usage Effectiveness)」がある。「データセンター全体の消費電力」を「IT機器による消費電力」で除した値である。グーグルは、6カ所のデータセンターの年平均で1.21と発表している。一方、現在の日本標準は2.3から2.5程度とされる。最新鋭データセンターでも、IBMで1.8(幕張データセンター)、日立製作所で目標値が1.6以下(2009年に横浜市に竣工予定)である。

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