政府関係機関による株式市場買付構想
2009年04月16日
2009年4月10日、政府・与党は追加経済対策(「経済危機対策」)を発表した。その中で、銀行等保有株式取得機構による買取対象の拡大のほか、新たな株式市場対策として、「政府の関係機関」が株式等を市場から直接買い取る構想が盛り込まれている。その財源として50兆円の政府保証枠を用意することも明示されている。
こうした議論のたびに必ず聞かれる質問がある。「株式市場の公正性・信頼性を損なう危険性はないのか?」という質問である。
この質問に正面から答えようとすれば、「危険性は否定できない」と言わざるを得ないだろう。株式市場への対応として政府の関係機関が株式等を市場から直接買い取ることは、実質的には、ある種の相場操縦類似行為が行われることに他ならない。その意味では、市場の価格発見機能を歪める危険性を内包するものであることは否定できないし、あくまでも例外的な「緊急避難」としてでなければ正当化することは難しいだろう。
このような観点に立てば、追加経済対策が、今回の措置をあくまでも「臨時・異例の措置」と位置づけていることは正当であると考えられる。ただ、そうした「緊急避難」を発動するトリガーとなる「市場の価格発見機能に重大な支障が生じる状況が継続するような例外的な場合」については、現時点では具体的なイメージは示されていない。
今後、構想を具体化するに当っては、恣意的な判断でトリガーが引かれることがないように、適切な措置を講じることが必要である。仮に、現状は「緊急避難」が正当化される環境だとしても、将来、少し相場が崩れるたびに「また、あれをやろう」と乱発されるようなことは避けなければならない。そうでなければ、将来に禍根を残すこととなるだろう。
具体的に、どのような買取スキームを構築するのであれ、公正かつ透明なプロセスで発動・運営されることを担保することがポイントになると考えられる。最低限、「緊急避難」が必要であること、他に採り得る手段がないこと、副作用が最小限であることなどについて十分な説明責任(アカウンタビリティ)が事前・事後に果たされる必要があると思われる。
同様の問題意識は、現時点では明らかにされていない実施主体である「政府の関係機関」の決定に当っても求められるだろう。発動の適切な判断、運用の適正性の確保、適切な出口戦略の構築、国民負担の最小化などを含めて、「緊急避難」に関する責任の所在が政府にあることを明確化するという観点から、適切な実施主体が決定されることが望まれる。
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