スタバの変身

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2009年04月13日

  • 成瀬 順也

世界最大のコーヒーチェーン、スターバックスが大変身を遂げようとしている。これまでの高級路線から一転、安売り路線へと転じたのだ。3月から米国内で実質初めてとなる値引きメニューを採り入れ、コーヒーと朝食のセットを3ドル95セントで販売し始めた。従来の価格より平均で1ドル20セント安いという。しかも、一部の州ではこれまた同社史上初となるインスタント・コーヒーの販売を開始。秋からは全米に広げる予定だ。3月18日にシアトルで開催された株主総会では、ハワード・シュルツCEOが「ドリンク・メニューの半数以上が3ドル未満で、3分の1は2ドル未満」と力説し、スターバックスは高いというイメージを払拭するのに躍起になっていたほどである。

シュルツ氏は1987年から2000年にかけてCEOを勤め、同社を飛躍的に拡大した功績者である。いったん会長に退いたが、業績悪化を受け2008年1月からCEOに復帰した。復帰当初の路線は、今と正反対の高級化。コーヒー販売に力を入れ始めて成功したマクドナルドに対抗するため、レギュラー・ブレンドより高いプレミアム・コーヒーを売り出すなどして差別化を図ろうとした。それでも業績は悪化を続けたが、昨年7月時点では「ファストフード店とは一線を画す」として「商品を組み合わせたセットでの値引き販売はやらない」と豪語していた。消費者が高級ブランドのコーヒーを割高な値段でも進んで購入していると主張し、値下げに対して消極的だったのである。

そんなスターバックス、いやシュルツCEOを何が変えたのだろうか。もちろん、業績の低迷が直接の要因であることは間違いないだろう。問題は、その背景である。オバマ政権の誕生と、行き過ぎた資本主義に対する民衆の怒りが根源にあるのではないだろうか。政権発足前に想定していた以上に、ポピュリズム的な姿勢が目に付き始めた。オバマ大統領の人気が高まれば高まるほど、景気対策は貧困対策へと姿を変え、社会主義的な所得の再分配機能が強まっていく。消費者の巣篭もり、節約、低価格志向はシクリカルな問題ではなく、構造的な問題と捉えたほうが良いのかもしれない。

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