根深い欧州通貨安
2009年04月09日
ここもと少し落ち着いて見えるものの、ポンドの下落は目を覆うばかりである。250円/£台を付けた一昨年夏を境に急落を始め、今年の1月末にはとうとう110円/£台となった。英国といえば国有化されたロイヤルバンク・オブ・スコットランド。直近決算では281億£の赤字とのことである。邦貨換算で約3.5兆円と、米シティより大きな赤字となった。超大国米国政府でさえシティ1社の救済に四苦八苦している。英国政府はシティより大きな赤字を出した銀行を支えられるのであろうか。英国の抱える闇は深い。
一方、大陸欧州はどうだろうか。投資銀行筋に拠れば、米国で金融混乱を巻き起こした証券化商品の欧州での販売実績は、米国の5~6倍程度とのことである。欧州におけるこれら証券化商品の(時価)評価は遅れている。投資銀行筋の話が正しく、また、販売された商品が米国と大差ないとすると、今後、米国の5~6倍の規模の金融混乱が欧州で生じることになる。既に、その一端は昨年末に現れている。ドイツ銀行が発行した金利ステップアップ条項付債券が、繰上償還されなかったのである。この手の債券は、10年満期で発行されるが、6年目から金利が上がる条項が付いているケースが多い。発行体としては、当該債券を実質5年債として発行しているのであり、6年目以降のステップアップした金利を支払うつもりは始めから無い。つまり、こうした債券は5年目で繰上償還されるのが通常であり、投資家もこれを承知して購入している。上述のドイツ銀行債は昨年末に発行5年を迎えたのであるが、繰上償還されなかった。当時のドイツ紙などは、この話題をかなり取り上げた。ドイツ銀行としても、償還資金が確保できなかったのか、流動性を確保したかったのか、理由は良く分からないが、異常事態であることには違いない。投資家からは果てしない不信を持たれた。
EUに関して言えば、今のところ欧州中央銀行(ECB)の対応の遅さが指弾されている。今後事態が悪化すれば、米FRBのように、量的緩和、更には社債・コマーシャルペーパー買入れのような「質的緩和」まで踏み込むのだろうか。質的緩和まで踏み込むとすれば、EU各国で買ってもらいたい債券はそれぞれ違うだろうし(例えば、A格までとかBBBも買ってほしいとか)、債券に政府保証を付けさせようとしても、国ごとに条件を変えることができるのだろうか。更に、仮に輪番オペを採ったとしても、スペイン債ばかり持ち込まれたのではECBの資産劣化が起きてしまう。といっても各国国債を区別すれば紛争になるかも知れないし、結局どの国債もソブリン一般として買い入れるのだろうか。このようにECBが採れる金融政策は、限られているのかも知れない。
一方、EUにおける財政政策は各国の政府が担当している。ECBによる金融政策が出尽くせば、財政政策ということになるのだが、果たして各国の足並みは、金融政策との整合性において揃うのか。また、EU域内で、G7参加国として経済的に評価できるのは、仏独+伊ぐらいであるから、要するにこの3国で米国の5~6倍の不良資産を支える、ということになる。更に恐ろしいことに、エマージングバブルに乗って、実力以上のお金が東欧諸国に集まってしまっており、これが弾けた場合(弾けつつあるが)、欧州経済に与える影響は計り知れない。
財政出動に伴う国債の発行、消化にも不安が残る。というのは、投資家サイドも、ドル・ユーロ・円という風に通貨を分散してポートフォリオを組むのだから、フランスもドイツもスペインも・・、全てユーロ債を出したら、投資家のユーロ枠をオーバーしてしまうかも知れない。
ユーロは壮大な実験場と化している。
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