最近の金融規制議論について
2009年03月30日
世界的金融危機の発端となったサブプライム問題、証券化バブルの教訓から金融規制強化の議論が高まっている。
規制は、銀行と資本市場が対象となり、銀行規制としては、国際業務を行なう銀行のBIS自己資本比率の引き上げ、景気局面によって可変的なBIS基準の採用、不動産融資規制などが挙がっている。一方、資本市場規制は、ヘッジファンド、プライベート・エクイティファンド等に登録制を導入し、証券取引委員会(SEC)の監督下に置くこと、自己資本比率規制を適用すること、CDS等デリバティブ取引の集中決済方式の導入、証券会社の自己勘定による証券トレーディング制限、ヘッジファンドなどが拠点とするタックス・へイブンの取り締まり強化等が挙げられている。
注目されるのは、今回のバブルの原因ともなった銀行の過剰融資と証券化をどう規制していくかということであり、BIS基準の見直しということになるだろう。しかし、BIS基準を厳しくすれば良いかと言えばそうとも言えない。例えば、住宅ローンのリスクウエイトを高めると、銀行はそれを証券化してオフバランス化しようとするインセンティブが働き、リスクの高い住宅ローンから証券化されやすくなる。景気が良かったり、カネ余りの状況であれば、投資家のリスク許容度が高く、市場で消化されやすい。一方、リスクウエイトを低くすると、住宅ローン自体が増えてしまい、不動産市場にマネーが流れ込み、不動産バブルが生じやすくなる。またこれは全体のBIS自己資本比率を引き上げようとしても、同じようなことが起こり得る。
BIS基準を厳格化しようとすれば、リスクの高い貸出資産が安易に証券化されないような仕組みを用意する必要がある。投資家保護という観点から証券化商品に関する情報開示を徹底することは勿論であるが、例えば、家電等で適用されているPL法(製造物責任法)のような制度を作り、証券化商品の製造・販売責任を明確化するということも一考だろう。
ただ、規制強化だけですべてが解決するとも言い切れない。規制は画一的なものであり、経済変動のような外生的変化に対応できない。結局は、金融当局がルールと裁量を用いて、臨機応変に対応、監視していく必要があるだろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
メタバースは本当に幻滅期で終わったか?
リアル復権時代も大きい将来性、足元のデータや活用事例で再確認
2025年06月11日
-
議決権行使助言業者規制を明確化:英FRC
スチュワードシップ・コード改訂で助言業者向け条項を新設
2025年06月10日
-
上場後の高い成長を見据えたIPOの推進に求められるものとは
グロース市場改革の一環として、東証内のIPO連携会議で経営者向け情報発信を検討
2025年06月10日
-
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
-
「内巻」(破滅的競争)に巻き込まれる中国自動車業界
2025年06月11日