東大寺お水取りに想う

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2009年03月23日

  • 菅原 晴樹

お水取りが見たくて奈良に向かいました。

近鉄奈良駅に降り立ち、「お松明」が始まる夜の7時半までには時間があったので、高畑町までバスに乗り、高円山の麓にある白毫寺を訪ねました。山門から急な石段を登ると眼下に奈良市内が一望でき、遠景には生駒山も霞んで見えました。境内には有名な「五色の椿」が満開。その周りに、ほのかに香る水仙も咲いていました。それから、新薬師寺へ。庭には連翹(レンギョウ)が黄色い花をいっぱいつけていました。金堂の中に入り、十二神将をゆっくり拝んでから、ささやきの小路をぬけて目指す東大寺二月堂に向かいました。一本目の「籠松明」に点火される一時間半前に着きましたが、もうすでに長蛇の列。底冷えのする木立の中で待っていると前方がざわめき、暗闇の中から明るい炎が垣間見えました。そして、前の集団のあとをついていくと、二月堂の下にたどり着き、次々と焚かれる長さ8メートル、重さ60キログラムの「籠松明」が、火の粉を撒き散らしていました。残念ながら、一般参拝者は、お堂の真下まで行くことができず、立ち止まることもできず、三月堂(法華堂)のほうへ押し出されてしまいました。もっと勇壮な火祭りのような光景を想像していましたが、11人の練行衆の足元を照らす11本の松明の火は神秘的で厳かな雰囲気を醸し出していました。

12日深夜には堂の下にある「若狭井」から水をくみ上げ、本尊の十一面観音に奉げるそうです。そのような行法が奈良時代の752年から絶えることなく、今年で1258回目を数えると聞き、ふと頭を過ぎったのが「公的年金の財政検証」のこと。

2月23日厚生労働大臣の諮問機関である「社会保障審議会年金部会」で「平成21年財政検証結果」が報告されました。この検証は、人口および経済等の前提をおいて、平成21年度(2009年度)から平成117年度(2105年度)までの95年間の年金財政を見通したものです。公的年金制度については、2004年改正により「百年安心」できる持続可能な制度への改革が行われ、5年ごとにチェックすることとなり、今回、初の財政検証が実施されました。その中で、給付水準の将来見通しでは、平成21年度の所得代替率62.3%から、マクロ経済スライドによる給付水準の調整が図られ、平成50年度以降は50.1%となり、今後、概ね100年にわたって財政の均衡が図られるとの結果が示されました。ただし、前提となる出生率や経済成長等を高位、中位、低位の3分類して推計していますが、最も低いケースでは平成60年度以降、所得代替率は43.1%まで低下します。これは、現在、20歳代後半のサラリーマンが年金受給者になる頃の「老後保障」の水準かもしれません。一方、医療・介護を含めた社会保障制度を維持するためには、今後消費税などの税負担が増えることは確実です。将来の年金受給者のために、将来の社会保障制度の姿を正確に伝え、国ができることとできないことを明確にアピールすべきではないでしょうか。それによって、公的年金に対する不信感を払拭させるとともに、自助努力、自己責任の必要性を醸成させることとなるでしょう。マッチング拠出が可能となる確定拠出年金の普及はもちろんのこと、老後保障に資する商品を提供できる金融機関はその責任の重さを受け止めて、将来の年金受給者のニーズに応えるため、今後一層地道な努力をするべきでしょう。

1200年以上脈々と続いている東大寺二月堂の「お松明」を仰ぎ見ながら、老後の不安を抱える国民の足元を照らす「百年安心」の制度が続いていくことを祈るばかりでした。

袖ひちて むすびし水の 凍れるを
                         春たつ今日の 風やとくらむ (紀貫之)

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