保守的資産のNNV(ネットネットバリュー)
2009年03月18日
株価が大きく下がってくると下値の目安として解散価値が注目される。一般には、個別企業の解散価値が1株当りの純資産(BPS)とされる。BPSは、企業の決算時に発表される貸借対照表で総資産から負債を引いた残り(厳密には、更に新株予約権や少数株主持分を除いた部分を株主持分として用いる)を発行株数で割って求める。企業が解散した時の企業が保有する資産の評価額が総資産であるため、そこから債権者の保有部分である負債を引いた残りが株主の保有部分となるからだ。この解散価値と株価を分かり易く比較した投資指標がPBR(株価÷BPS)だ。PBRが1倍を割り込むのは解散価値よりも株価が売り込まれたことを表すといわれる。
しかし足元では単純なPBRの投資指標の信頼性が揺らいでいる。実際に東証1部企業の77%(2009年2月末時点)がPBRの1倍を割り込んできた。これほど解散価値を割り込む企業が多いことは、解散価値の計算としてBPSが信頼できないと考えることが自然だろう。
ここでPBRについて今一度考えてみよう。PBRが1倍を割れることは本当に解散価値がプラスで投資家がメリットを受けるか?現実には企業の財務諸表で示された資産は、その企業が事業を続けている場合には妥当な評価額とも考えられる。しかし例えば、企業が保有する機械などの設備を売却しようとしてもその時点で別の企業に需要がなければ評価額の回収は難しいだろう。そう考えるとPBRに過度な信用はできない。特に経済環境が悪化するほど企業の保有する設備の買い手は現れなくなる。設備に限らず、土地などの評価までも資産価格全体が下落するなかで、信頼性が揺らいでいる。こうした場面は、もっと企業の資産評価を厳しく見積もった投資尺度に注目すべきだろう。これがネットネットバリュー(NNV)だ。企業の資産を次の様に考える。まず現金と預金、そして短期保有の有価証券はそのまま財務諸表の数値を使い、売掛金と受取手形は評価を85%とする。これは資金の回収が可能なのは経験的にこの程度だろうと捉えるのだ。更に、換金性の程度から在庫は50%、固定資産(有形、土地や建物など)は45%と、評価額を財務諸表で示された値と比べて、これらの値を乗じて厳しく見積もる。そして、ここから負債を引いたものが企業の解散した時の価値と考えるのだ。実際には、これを更に厳しく見るために3分の2にする。こうして求めた値を時価総額で割って値が高いものは解散価値と比べて魅力が高いと見るものだ。資産価値の評価が厳しい環境が続く中で注目したい。
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