経済危機とCSR

RSS

2009年03月09日

  • 河口 真理子

今回の「100年に一度」の経済危機の議論が活発化してから、一見企業の収益とは無縁と思われるCSR活動ついてたびたび質問を受ける。

CSRというと90年代のバブル時期に一時ブームになったフィランソロフィー活動が引き合いに出されることが多い。当時はバブル景気で、多くの企業が芸術支援などフィランソロフィー活動に積極的になったが、その後の景気悪化で、気がついたら消滅してしまっていた。今回のCSR活動についても同様の末路をたどるのでは?という疑問も当然だろう。しかし、筆者は前回のように雲散霧消することはまず無いと考える。当然多くの企業でCSR関係の予算は削減されている。特にCSR報告書の作成費用などは大幅に削られている。ただしこれは全ての予算の見直しの一環としてと解釈したほうが自然である。逆に予算が減っている分、社員の知恵と工夫で活動を続ける、あるいは積極化させるという企業が多い。

そもそもCSRとは、環境配慮、人権保護、労働問題などの社会の課題を、本業を通じて解決する活動であり、収益の一部を本業とは関係がなくても世の中では評価される芸術活動などの支援に充てる、というフィランソロフィーとは根本的に異なる。CSR活動として具体的には、省エネ商品の開発、製造時や輸送時の環境負荷の削減、従業員格差を小さくしたり、ワークライフバランスのとれた職場環境の整備、途上国の生産拠点で労働者や地元の人たちの人権に配慮すること、などがある。これらの活動は、それぞれ効率性向上、従業員モチベーションやブランド価値向上などのメリットを本業にもたらす。特に地球温暖化は、低炭素社会という有限な資源を前提とした新たな社会経済構造への転換を迫っている。グリーンニューディールに示される通り、環境は大きなビジネスチャンスである。こうした危機的な状況だからこそ、根本的な社会の課題に応えうるビジネスモデルをCSR戦略として考案していくことは重要で、すでに多くの先見性のある企業は、静かに知恵による投資を積極化させている。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。