これは新種の通貨危機なのか?
2009年02月25日
昨秋以降の世界的な金融危機は、これまでの景色を一変させた。為替市場も例外ではなく、2008年前半までとは異なり、双子の赤字への懸念が強かったはずの米国の通貨ドルと、超低金利で魅力が無かったはずの日本の通貨円が急速に値を戻している。対照的に、補完的な基軸通貨としての期待が高まったユーロは下落し、前途洋洋であるはずの新興地域でも、多くの国が通貨の下落圧力を経験した。
為替レート修正の背景はもちろん関心事ではあるが、より注目されるのは、今回の経済混乱を通貨危機の視点からみると、過去の事例とは若干異なる新しい型が出現しているのではないかと思われる点である。複数国が同時に危機に直面した最新事例は、1990年代後半のアジア通貨危機であるが、そこでは事実上の対ドル固定為替相場制の維持可能性が大きなポイントであった。固定レートは為替リスクを消滅させるがゆえに過剰な資本流入を招きやすく、流入資本が逆流し始めると限りある外貨準備を取り崩して固定レートを維持することは難しくなる。この結果、固定レートの放棄を余儀なくされたのがアジア通貨危機の基本的な構図である。
ところが、今回の世界金融危機でIMFの支援を受けることになったアイスランドは変動相場制を採用している。この場合、本来なら為替変動リスクの存在が、ある程度まで資本移動のブレーキ役を果たすはずであるが、実際には過剰な資本流入とその逆流といった現象はここでもみられ、資本流出に伴い為替レートは急落している。IMF支援を受ける他の国をみても、独立フロートか管理フロートといった変動型の為替制度を採用する国が多い。このことは、過去数年間で世界の至るところでバブル的な動きが生じたことが反映されているのか、それとも、資本移動のグローバル化に伴い、大規模な資本移動の前で為替変動リスクは非力と化したのか、判別は難しい。もし、後者の要因が強く作用していれば、資本移動と為替レートが急激に変化する可能性は、以前よりも構造的に高まっていることを示唆する。であるならば、適正規模の資本移動、流入資本の監視、適切な為替制度の選択などについて、これまでとは異なるアプローチで制度設計を考える必要があろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
2022年07月04日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
-
2022年07月01日
2022年5月雇用統計
失業率は4カ月ぶりに上昇するも、均して見れば雇用環境は改善傾向
-
2022年07月01日
2022年6月日銀短観
外部環境悪化と国内経済活動再開が製・非製の業況の明暗を分ける
-
2022年07月01日
ディスクロージャーワーキング・グループ報告(コーポレートガバナンスの開示等)
-
2022年07月04日
男性育休取得率の向上は「ゴール」にあらず
よく読まれているコラム
-
2021年12月01日
もし仮に日本で金利が上がり始めたら、国債の利払い費はどうなる?
-
2022年01月12日
2022年米国中間選挙でバイデン民主党は勝利できるか?
-
2022年05月31日
先進国からの制裁を浴びるロシアの通貨ルーブルが大幅上昇
~一旦半値に、その後資本規制により6年10カ月ぶりの高値へ~
-
2022年04月21日
日本経済はウクライナ危機・感染拡大の下で「悪い円安」に直面
-
2015年03月02日
宝くじは「連番」と「バラ」どっちがお得?
考えれば考えるほど買いたくなる不思議