住宅バブル崩壊と中国

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2009年02月02日

  • 原田 泰

世界金融危機の一因として、中国をはじめとするアジアの過剰貯蓄があるという説がある。過剰貯蓄がアメリカの実質金利を低下させ、実質金利が低かったがゆえに住宅バブルが起こったというものだ。しかし、まず、アジアの過剰貯蓄が、本当にアメリカの実質金利を低下させたどうかに疑問がある。名目金利の低下がインフレ率の低下によるのは確かだが(これについては私の論文「『長期金利の謎』を解く」大和総研、2007年 5月9日、を参照していただきたい)、実質金利の低下が何によるのかは、それほど明確ではない。しかし、仮に、中国の過剰貯蓄がアメリカの実質金利を低下させたからと言って、何が悪いのだろうか。

実質金利が低くなれば、アメリカはより多くのものに投資ができる。これまでよりも収益率の低い投資もできるわけだが、それで何も困らない。返さなければならない借金の金利が低いのだから、収益率の低い投資を行っても、十分に採算が取れるはずだ。過剰貯蓄は、中国からアメリカへのプレゼントである。

過剰貯蓄が一時的ならまずいかもしれない。アメリカが低い金利を当て込んで過大な投資をした後、中国の人々が、突然、自分たちが貯蓄しすぎていたことに気が付き、消費を拡大し、貯蓄を減らしだしたら、アメリカの金利が上り、過大な投資プロジェクトが破綻することになるからだ。しかし、住宅バブルがはじけたのは、中国の貯蓄が縮小したからではないことだけは確かだ。中国の過剰貯蓄は変らないのに、アメリカの住宅価格が勝手に崩壊したのだから。

中国の過剰貯蓄が金融危機の原因だというのは、なぜ金融危機が起こったかについての、真実の探求を遠ざけることになる。

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