サブプライム問題後の世界
2008年12月11日
入社から10年強は米国を中心とする海外の株式・産業調査にたずさわっていた関係で、米国への思いはそれなりに大きいものがある。
80年代初頭の海外調査時代の最も鮮明な思い出は、入社間もないある日のこと、長く停滞していた米国株式市場が突如大商いを伴い力強く上昇に転じたことである。後になって、まさにこの日を起点に米国で歴史的な大相場がスタートしたことを知る。
87年のブラックマンデー等、紆余曲折はあったものの、80年代のウォール街は一貫して輝いていた。前例のない大規模なM&Aを次々と実現に導く一方、ジャンク債・証券化商品等の様々な金融技術の開発も主導した。現在、論争の渦中にある自動車大手3社も80年代はまだ健在だった。今では知る人も少ないと思うが、82年~88年にはデトロイトでF1レースが開催され、その威光を世界に放っていたのである。
80年代初頭からおよそ四半世紀が過ぎた今、残念ながら米国にかつての面影はない。それ以上に、米国を震源地とする世界的な金融・経済の混乱の大きさと広がりにただただ驚くばかりである。
金融・資本取引のグローバル化が今日の世界的な金融危機の主要な背景を形成してきたことに間違いないが、歴史をさらに遡れば、80年代初頭のレーガン政権時代における米国のパブリックポリシー(公共政策)の転換に行きつく。すなわち、当時、レーガノミックスと呼ばれた「小さな政府、減税、規制緩和等」を目指す政策理念への転換である。
その後の歴史をみれば、このポリシー転換が国内的にはインフレ沈静化と並んで80年代の株式市場や企業活動の新たなダイナミズムとなったばかりでなく、対外的にも、後にNPM(ニューパブリックマネジメント)と総称される日本を含む先進各国の行財政改革さらに金融やインフラ関連の産業構造改革に多大な影響を与えたことがわかる。米国の自由主義の理念もまた、過去四半世紀の間に市場、企業活動のグローバル化を促進する原動力となり、世界を大きく変えた。
今いえることは、米国に何らかの影響を受けてきた80年代以降の世界の金融・経済の枠組みが、今回の米国発の世界的な金融・経済危機を契機に大きな限界を露呈したということである。日本も含め、世界が新たに目指すところはどこなのか。有効な回答はそう簡単には見つかりそうもない。
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