「定額給付金」再考
2008年12月08日
定額給付金(1人12000円)の案が決着した。世界経済の低迷で、類似の政策が複数の国でも話題になっているようだ。ただし、日本では物価高・原油高対策として、8月に「定額方式の特別減税と臨時福祉特別給付金」がアナウンスされ、10月の追加対策で生活支援としての「定額給付金方式(の減税)」に衣替えされた後、11月に「定額給付金」となった。1年限りの減税だと次年度は増税と論評されるが、1回限りの給付金は歳出の話で、減税や増税ではないということだろう。
それにしても、消費者物価の上昇率は7~8月頃がピークで、先行きはデフレに逆戻りする心配もある。1バレル140ドル超をつけた原油価格は、すでに50ドル前後まで下落している。状況が05年初め頃に回帰すれば、ガソリン・灯油費だけでも家計平均の負担は直近1年間と比べて月額2300円(年率27000円)程度減る。夏に支給されていれば政策への支持はそれなりに高かったろうが、年度内支給が厳しいという報道もあり、所期した目的に照らすとタイミングを逸した感が否めない。ちなみに、98年の特別減税や99年の地域振興券は、かなり迅速に実施された。
所得制限について世論が沸騰した。1億2770万人、約5000万世帯にミスなく支給するだけでも必要な費用やマンパワーは想像を超えるが、一部住民に給付しないとなればそれだけコストがかかる。政策目的や金額にもよるが、もとより「定率ではなく定額」「減税ではなく給付金」とした時点で低所得者重視は明らかだから、所得制限論議が本質とは思えない。最終的に決まった年間所得1800万円以上の国民は0.3~0.4%とみられ、実質的な意味は薄い。まとまった住民税を納付してくれる高所得住民の反発をかうだけの所得制限を、手間をかけてまで実施する動機が自治体にはないだろう。
18歳以下と65歳以上には1人8000円が加算されるという。子育てへの配慮は理解できるが、後期高齢者医療制度の年齢区分が批判されるのに、65歳以上というだけで一律弱者と扱うことにはなぜ疑問が呈されないのか。近年、現役層の消費が落ち込んでいる一方、高齢者層の消費は底堅い。引退層は定義的にフローの所得が小さいため、所得を基準にすると富裕な高齢者はみえなくなる。本当に困っている高齢者と資産を持ち購買力が高い高齢者を区別せず、現役層だけ区別するのはバランスに欠く。
肝心の経済効果はどうか。似た政策である99年の地域振興券に関する分析や定額給付金に関する最近の調査を踏まえると、半耐久財(衣類等)や娯楽などに消費拡大効果が生まれる可能性がある。ただ、そのマクロインパクトは2兆円の1~2割と見込まれる。要するに大部分は貯蓄にまわるということだが、財源は「霞が関埋蔵金」であり、政府資産が民間資産となる点が敢えていえばポジティブかもしれない。
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