法隆寺五重塔に想う

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2008年12月03日

  • 菅原 晴樹

紅葉が見たくて京都に向かいました。

京都駅から奈良線に乗り換えて、東福寺駅に降り立ち、東福寺通天橋へ。辿り着いて驚きました。ここは大阪の戎橋かと錯覚するくらいの人出でした。でも、紅葉の木々のボリューム感と色づきは見事でした。それから、南禅寺の山門付近の紅葉をくぐりぬけ、永観堂へ。色鮮やかな紅葉に囲まれた建物を結ぶ長い回廊をのぼり、阿弥陀堂に安置されている「みかえり阿弥陀」を拝み、さらに混んでいることは承知で詩仙堂を訪ねました。予想通り、庭を見渡せる軒先は立錐の余地もないほどでした。もちろん、紅葉は盛りで、木々を通して注ぐ陽の光も赤く染まっていました。翌日は朝早く、大和路快速で斑鳩の里に向かいました。JR王寺駅から紅葉の名所、竜田公園を経て法隆寺へ。松並木の参道を歩いて中門まで来ると仁王像が目に入ってきます。境内は、昨日の京都とはうって変わって人もまばらでした。冷気の漂う中、金堂と並び五重塔が長い歴史を経た姿を現します。興福寺、東寺、そして山口市の瑠璃光寺の五重塔も感動しますが、やはりこの塔に一番心惹かれるのは私だけでしょうか。

小春日和の中、境内を囲む回廊を寄り添う老夫婦を見て、ふと頭を過ぎったのが「年金制度」のこと。

11月4日社会保障国民会議の最終報告に続いて、厚生労働大臣の諮問機関である「社会保障審議会年金部会」が「議論の中間的な整理-年金制度の将来的な見直しに向けて」をまとめ、11月27日に厚生労働省から公表されました。公的年金制度については2004年改正により「百年安心」できる持続可能な制度への見直しが図られました(信じている人は少ないでしょうけど・・・)。その後、年金制度に対する不信感・不安感を抱かせた「消えた年金記録」、「標準報酬の改ざん問題」が明らかになりました。今回の中間報告では2004年改正後に指摘された課題として8項目について議論を進め、次期制度改革に向けた整理を行いました。その中で、低年金・低所得者に対する基礎年金の拡充策を検討する上で、「税方式と社会保険方式のポリシーミックス」を打ち出し、具体的方策として「最低保障年金」、「保険料軽減支援制度」および「単身低所得高齢者等加算」が、「税方式」とともに提示されました。実現のためには、追加的費用が必要であり、保険料財源で対応する場合は、2004年改正の財政フレーム(保険料の上限設定)を変えざるを得なくなります。また、税財源で対応する場合は、消費税を含め税制の抜本改革を通じた安定財源の確保が必要となります。いずれにしても、医療・介護を含めた一連の社会保障制度改革を実現するには、国民は、社会保険料の負担が増えるか、消費税などの税負担が増えるかを迫られるわけです。国民の信頼を取り戻し、不安感を払拭するためには、制度の実態をいち早く正確に開示することが必要ではないでしょうか。

五重塔を見上げていると、鐘が鳴るのが聞こえてきました。「百年安心」という言葉があまりに空虚な響きに感じられました。

龍田姫  手向くる神の  あればこそ
                          秋の木の葉の  幣と散るらめ (兼覧 王) 

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