大学法人の資金運用動向

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2008年11月27日

  • 内藤 武史

大学法人の金融資産運用利回りが上昇している。平成18年度は1.323%と平成10年度以降で最高となった。金融収支の黒字幅(1法人あたり)は179百万円と3年前の2倍にまで急拡大している。これは、平成13年度以降、低下傾向が顕在化している学校事業収支をカバーすべく事業外収支の拡大を図ってきた結果といえよう。

金融資産運用利回りの上昇・金融収支黒字幅の拡大の具体的手段は、期待収益率の高い金融商品への投資比率の拡大であると考えられる。21世紀大学経営協会・財務戦略委員会の『第2回学校法人における資産運用状況調査』(2008年2月)によると、139の大学法人中114法人(全体の82.0%)が有価証券運用を行っていると回答しており、有価証券比率が50%を超えている法人は42法人(同30.2%)となっている。現在保有している金融商品をみると、国内公共債が96法人(同69.1%)、国内民間債が56法人(同40.3%)、仕組債(元本リスクなし)が71法人(同51.1%)、仕組債(元本リスク有り)が37法人(同26.6%)となっている。また、外貨預金・外貨建外債や株式・株式投資信託といったリスクが相対的に大きい商品が全体の1~2割の法人で採用されており、ヘッジファンド、REIT、コモディティといったオルタナティブ商品も一部でみられる。

平成19年度の主要大学法人50法人の金融資産関連指標を検証したところ、金融資産運用利回りをみると、5.0%超が2法人、4.0%超~5.0%が3法人、3.0%超~4.0%が5法人、2.0%超~3.0%が4法人、1.0%超~2.0%が22法人、0%超~1.0%が14法人となっている。2.0%超が14法人と全体の28%を占めているが、これは調査対象は異なるものの、前述調査の有価証券比率50%超となっている法人の比率30.2%に近い数値となっている。このことから、有価証券保有比率の上昇と金融資産運用利回りの上昇には一定の関係があるとみられる。もっとも、有価証券保有比率が低いにもかかわらず、金融資産運用利回りが高水準となっているケースもみられる。逆に、有価証券保有比率が比較的高いものの、金融資産運用利回りが低いケースもある。このことは、金融資産運用利回りの差が単に有価証券保有比率だけでなく、有価証券の保有内容の差異によって生じていることを示している。

有価証券評価損益については、昨年来の市場環境の悪化を背景に、評価損が生じている大学法人が多数を占める状況となっている。平成19年度決算では有価証券の評価替えにより、当初見込みを大幅に上回る資産処分差額を計上せざるを得なくなった大学法人もあるようだ。今年度に入り運用環境は一段と厳しさを増しており、大学法人の運用損失が連日報道されている。より高いリターンを追求すれば、より大きなリスクをとらなければならないことはいうまでもない。資金運用に際してのリスク管理が一段と重要性を増してきているといえよう。

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