負担の公平性を担保するにはリスク調整の導入が不可欠

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2008年11月14日

  • 齋藤 哲史

中小企業のサラリーマン等が加入する政府管掌保険(政管健保)が、10月1日付けで全国健康保険協会(協会けんぽ)に移行した。これに伴い、8.2%で一律だった保険料率が、今後は医療費実績を反映して、都道府県ごとに設定されることになる。医療費の高い地域ほど加入者の負担は増え、低い地域ほど減るわけだ。ただし、高齢化率の高い県や所得水準の低い県は、同じ医療費でも保険料率が高くなることから、これら2つの要因について都道府県間で調整(リスク調整)が行われる。

厚生労働省によると、リスク調整後の協会けんぽの保険料率は全国平均で8.3%~8.5%、最高は北海道の8.7%、最低は長野県の7.6%で、その差は1.1ポイントである。年収600万円だと、約7万円/年(労使折半)の違いだ。

これに対して、居住地によって保険料に格差が生じるのは、「不公平だ」との反論がある。同じ医療サービスを受けていながら、住む地域によってなぜ保険料率が違うのか、ということなのだろう。

しかし、リスク調整後における保険料率の差異は、基本的に保険加入者が健康維持に努力した結果であるから、何ら問題はないはずだ。逆に、無駄な医療費の抑制に成功した保険者に、努力不足の保険者の医療費を負担させる方が余程不公平である。

そもそも我が国の医療保険制度には、皆保険開始当初から保険者格差が存在していた。年齢が若くて所得水準の高い大企業のサラリーマンが加入する健保組合と、退職者や低所得者が中心で規模の小さい市町村国保が共存していることがその証左である。また、同じ健保組合の中でも、保険料率が6%未満の組合もあれば、政管健保の平均保険料率を超えている組合もあるし、市町村国保に至っては(リスク調整前で)5倍の格差があるとされる。年齢構成や所得水準が相当異なっているにもかかわらず、初期条件を統一していないのだから、格差が生じるのは当然であろう。こうして見ると、日本は誰でも同じ医療が受けられるというサービス面の公平性にばかり注意が向き、費用負担の公平性に関しては全く無頓着だったと言わざるを得ない。

こうした状況下で費用負担の公平性を担保するには、仕組みを変えることが必要である。理想を言えば保険の一元化なのだが、我が国には約3500の保険者が存在しているため、その利害関係を考慮すると、調整に手間取ることが予想される。そこで次善の策として浮かんで来るのが、協会けんぽで実施される予定のリスク調整だ。

リスク調整は、国民が一つの保険者に加入していると仮定した場合の保険料と、実際の保険料との差額を調整するもので、保険加入者の自助努力では解決できない格差を解消するメリットがある。既存の体制を維持したままで、公平性を担保するには、これ以外の解決策はないと言ってよいだろう。国民が負担の公平性を望むのであれば、今回の協会けんぽへの移行を機に、リスク調整を制度全体に拡げていくべきといえよう。

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