コンテンツビジネスのイノベーション喚起に向けて

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2008年11月13日

  • 丸山 将一

コンテンツに対する規制の動きが強まっていると感じないだろうか。

昨年12月10日、総務省は、携帯電話事業者に対して、携帯電話の有害サイトの未成年者による閲覧を制限するフィルタリングサービスについて、18歳未満の携帯電話利用者は原則適用することを求める要請を行った。これに端を発し、サービス提供事業者、消費者団体、有識者、総務省、国会議員、マスコミ等において活発な議論が繰り広げられた。そして、本年6月11日、ネット上の有害情報から青少年を保護・フィルタリングすることを目的とした所謂「青少年ネット規制法」 (※1)が参議院本会議で可決・成立した。

最近では、街並みの画像をインターネットにて無料で閲覧できるグーグルの新サービス「Google マップ ストリートビュー」が反響を呼んでいる。ここでは、個人が特定できないよう人間の顔には「ぼかし」を入れる自動処理が施されている。しかし、便利との評価がある一方で、通行人や自宅などもネット上に公開され、プライバシーや肖像権の観点から批判の声もある。本年10月9日、東京都町田市議会が、国などにグーグルへの規制を求める意見書 (※2)を賛成多数により採択したことは、その問題意識の高さの現れである。

新しいビジネスが生まれると、それに対する規制の議論は起こるものである。そして、時には、行き過ぎた規制が行われてきた。例えば、1990年代、研究者等に限定されていたインターネットが広く一般に開放されると、この「無法地帯」に対する規制導入の声が高まった。米国では1996年、通信品位法が成立し、わいせつ等の通信を行った者に対する刑事罰規定を設けた。しかし、1997年、「下品な」及び「明らかに不快な」通信を規制する部分について定義が曖昧という理由で違憲判決が下されている。

官製不況という言葉がある。遡ると、耐震偽装問題では建築基準法が強化され、建設業界が打撃を受けた。グレーゾーン金利に係る貸金業法改正では、個人のみならず中小企業も含めた破産が増加した。このように規制強化によって実体経済にネガティブな影響を与えた。コンテンツに対する規制の強化も、過剰な青少年保護や個人情報保護等により、ビジネスのイノベーションを抑制し成長の源泉を失わせることになりかねない。

本来、国にはビジネスのイノベーションを喚起し、イノベーションが正義・社会の安定や経済合理性と調和するような制度の構築が求められる。現在、コンテンツを巡る制度整備には、「情報通信法」や「著作権の保護期間」など様々な問題が山積している。国民は、新しい制度の導入がイノベーションを成長の源泉に繋げられるものであるようウォッチしていく必要があろう。

(※1)「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律」(平成20年法律第79号)

(※2)「違法・有害情報から子どもを守るための環境整備を求める意見書」(東京都町田市議会 平成20年意見書・決議 議案番号9)

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