「環境保護」重視の姿勢を引き続き求められる中国政府

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2008年11月11日

  • 横塚 仁士

中国では、一連の報道でも明らかなように環境汚染が深刻化しており、長江や黄河などの主要河川では水質汚染が激しく、なかには5割以上が飲用に適さない状態まで悪化している河川もある。さらに水問題だけでなく、大気汚染や二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの排出をはじめ多種多様な環境問題が存在しており、中国政府は「省エネルギー化と主要汚染物質 (※1)の排出削減」を国家目標の一つとして掲げ、法整備や関連施策の実施を急いでいる。

中国政府による取組みの強化を受け、政府の公表する統計上では省エネ化や汚染物質の排出削減は改善傾向にある。一方で、米国のサブプライム・ローン問題に端を発したといわれる世界的な金融危機の発生など不安的な要素が出てきたこともあり、中国企業の減益見通しが目立つようになった。この状況が続けば、企業が短期的に「コスト」となる環境対応投資を控えることも想定され、中国の環境問題がさらに悪化することが懸念される。

このような状況のなかで、温家宝首相は11月3日に「科学的発展観 (※2)の貫徹に関するいくつかの重大問題」という声明を発表した。温首相は声明文においてマクロ調整による経済の長期的発展、農村問題の解決、構造調整の促進などと同時に、資源の節約と環境保護を基本的国策の一つとして引き続き取り組んでいくことをあらためて強調した。中国では国家が重大な問題に直面した際には政府首脳が声明を発表して国内外に政府の姿勢を示すことが多く、今回の声明は金融危機により世界全体が苦しい状況においても、中国政府は引き続き環境保護を重視するという意思の表れであるとも解釈できる。

しかし、世界的な金融危機による影響が中国国内で更に広がった場合でも引き続きこの路線が継続されるかどうかは不透明である。中国ではここ1,2年で環境保護に関する企業や地方政府の社会的責任を求める施策が実施されているが、中国政府には今後もこのような姿勢を堅持することが期待されている。

(※1)硫黄酸化物と化学的酸素要求量(COD)などを指す。CODは水質汚染を測る指標として活用される。
(※2)2003年に提唱された概念で、経済成長・利益追求型の経済から、環境との共生や格差是正などの社会的な問題をより重視した社会の構築を目指す考え方。

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